蓮は必要なものを調達すると海へ帰りました。しばらくは魔女の使いもなさそうです。蓮の珍しい話を聞きにやってくる者の相手をして過ごします。中には話ではなく蓮への物珍しさで尋ねてくる者もいます。決して悪意はありません。人魚は好奇心が旺盛なのです。人間のように異質なものへの偏見もありません。それなのに蓮は『できそこない』という思いがどこかにありました。そんな所は人間に近かったのかもしれません。
偏見を持たない人魚は時として蓮を恋の相手に選びました。整った顔立ちは人魚から見ても美しく映ったのです。蓮が嫌う黒髪も黒い瞳も特別なものととらえられていました。人間とも恋ができる人魚ですから尾ひれがないことも気になりません。蓮は恋人として最高の部類に入りました。蓮の心の中に熱いものが芽生えたことはありませんが、それゆえに相手が何をどうしてほしいのか冷静によみとることができました。相手にとっては蓮のキスも愛撫も蕩けるようでした。それらは求められるからするだけでしたがおかしいとは思いませんでした。恋人はその時々で変わっていきましたが、もともと人魚の恋は短く移り気でしたから恋とはそういうものだと思っていました。
蓮は時折、あの海辺で出会った少女を思い出しました。それはオレンジ色の魚を見た時だったり流れてきた木の実をみつけた時だったりしました。何もなくても、海の底から太陽の光を眺めている時にも思い出すことがありましたが、蓮はなぜあの少女を思い出すのかはわかりませんでした。ただ、あの寂しげな笑みが思い浮かぶのです。
それから1年ほどがたちました。魔女の使いで蓮はあの陸にあがりました。あれから何度か陸にあがりましたが、少女に会った陸には用事がなく久し振りになります。嵐がきそうな天候に荷馬車が遅れていました。今晩は陸に泊まることになりそうです。足止めをくった旅人で宿はごったがえしています。人いきれに辟易した蓮は海辺で夜を過ごすことにしました。人間にとって嵐の近づく夜の海は恐ろしいものかもしれませんが人魚である蓮にはいつどんなときでも優しい海です。蓮は思い立ってあの屋敷にいってみることにしました。厚い雲がたれこめ、塩を含んだ重たい風が強く吹いています。まさかこんな天気のしかも夜遅くにあの少女が海辺にいるわけはありませんが、それでも何かの気配でもないかと蓮は海辺を1人フラフラと歩いていきました。
例の岩を積み上げた池のような囲いは1年前と同じ姿でありました。強風に煽られて高い波が岩に打ち付けられています。やはりあの少女の気配などありません。あるのは風と波の音だけです。蓮は自嘲気味に笑うと身をひそめられそうな岩陰を探します。その時です、波の間に何かオレンジ色が見えました。高い波の間を見え隠れしています。じっと目をこらしていると波に押されたのか水面から高く飛びあがりました。
それは人魚でした。
蓮は目を見開きます。
嵐の合間、雲の流れの切れ間のわずかな月明かりに美しいオレンジ色の長い髪が見えました。きらりと輝く尾の鱗が見えました。強風に吹かれてすぐに雲が月を隠します。美しいオレンジも七色に輝く鱗もすぐに見えなくなりました。蓮は波間に目を凝らし人魚を探します。じっと見つめますが憎らしい雲が月を隠してしまい見つけられません。蓮はじれったくなり、海に探しに行こうと服を脱ごうと手をかけました。その間も海から目を離すことはしません。ふとみると岩場に人魚が座ってこちらを見ていました。どうやら蓮に気付いたようです。蓮と目があったと思った瞬間、人魚は波間に消えていきました。蓮は追うのをやめました。人魚のほうから逃げたのです、追いつくはずがありません。
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なんだか蓮×キョかどうか自信がなくなってきました。