小夜子はセバスチャンと行動を共にすることになった。
彼はローリィの執事のようなことをしている。
ローリィが過ごしやすいように先回りしてイロイロな手筈を整えているが常人の斜め上の上をいく主人なので彼は無理難題をふっかけられることも少なくない。それでもいつの間にかその手筈を整えてしまうし、あまりにも常軌を逸している場合はいさめもする。
「ねぇ、どうやって気配を消しているの?」
小夜子はセバスチャンを観察しながら不思議に思う。今回こんなことになって初めてよく見るようになったのだが、かなりの美形だ。ローリィの無理難題をこなしているのだから頭の回転はかなりイイ。物腰も優雅で文句のつけようもない。
「と、言われますと?」
「だって、どこかの王族と言ってもいいほどに見えるのに、綺麗さっぱり気配がないのだもの。もしかてその逆かしら?どこかの秘密組織にでもいたの?」
セバスチャンは口元に笑みを浮かべて(少し口角があがったので多分笑ったのだと思われる)答えた。
「それは小説や映画でのお話です。いたって平凡な出自と経歴です。」
「ふ~ん?まぁ、いいわ。で、どうやって気配を消しているの?急にいなくなったり、突然現れたり何度も驚かされたわ。その技を教えて欲しいのだけれど...。やっぱり『無の境地』ってやつかしら?」
セバスチャンはしばらく考え込んでから漸く口を開いた。
「どうご説明申し上げればよいのやら...。『無の境地』とは違うような気がいたします。私はそのような悟りの境地は習得いたしておりません。以前、デビューしたころの最上様が...今はミセスヒズリですが...素の時は誰にも気づかれないとおっしゃておられたことがございます。お芝居になるとあそこまでオーラを発せられるのにです。
それは素の時はいたってナチュラルで車でいえばニュートラル、色で言えば無色透明、味で言えば無味無臭、スポンジのように何でも吸収される方だからだと思うのです。もっとも、ご本人は芸能人としてのオーラがない、『自分』というものがないからだと嘆いておいででしたが、それこそ役者として類まれな才能ではないでしょうか。何者でもないかわりに何者にもなれるという...。おや、私としたことが、話が逸れてしまいました。実のところ、自分でも意識したことがないのでわかりかねるというのが正直なところです。」
珍しく自分のことを語ったセバスチャンだったが、小夜子は増々わからなくってしまった。自分だって別段、目立とうとしているつもりはないし素でこうなのだから仕方ない。まぁ、『無の境地です』と答えられてもどうやって覚えればいいのかわからないのは同じなのだが...。
で、結局のところセバスチャンの行動を観察することが小夜子のできることだった。
セバスチャンは「無」ではない。これは観察していてすぐにわかった。ローリィの短い指示で複雑な雑務をこなしてしまう。ローリィの突飛さを考えれば、同じことの繰り返しはあまりないから経験プラス応用プラス創造力は必須。といいうことは無ではなくきちんと「自分」があるわけで。なんとなく『無』イコール『意思がない』といったようなロボット的な印象だったのだがこれは間違いだとわかった。
では気配を消すとはどういうことなのか...。
なんとなく思ったことは、消すというより同化している感じがするということだった。複数人いるときはその中の最もオーラの強い人に同化している。なので、ほとんどの場合、ローリィに同化している。全く同じように前面に出るわけではないので波長を合わせるといったほうが正しいかもしれない。ローリィがいない場合は、その集団の最大公約数的な人たちに波長を合わせているように見える。人は同じ性別、年齢、職業や学校、趣味、食べ物や衣服の嗜好など同じものと群れる習性がある。同じ集団の中ではどんなに個性的でも目立たなくなる。考えたくはないが大勢のローリィの中にローリィがいても目立たなくなるように...。
なんとなく、出口が見えてきた気がした小夜子は同年齢の女性の平均的な服装をして眼鏡をかけると街へでかけることにした。大多数の一般的な女性の波長を習得するために...。
そして、『その他大勢』の観察の結果、4日後にはめでたく出社の許可がローリィから言い渡された。
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いまさらながらですが...。
マリッジピンクとつながっていたりします。(マリッジピンクは読まなくても問題ないはず)
ヤッシーはしばらくキョーコのマネジャーとしてアメリカで過ごしていましたが諸事情で数年後に帰国したという設定です。たいした事情ではないので書かないかも知れません。