「えっ、もう1人ですか?うちのチームはもう3人いますよ。それも3人中、2人が新人なんですよ?!やっとどうにか独り立ちしたヒヨッコなんです。その上さらに新人をもう1人なんていくらなんでもムリですよ。」

「まぁな、それはわかってるんだが…。他のチームも同じようなもんだし、こんなこと頼めるのはお前んとこぐらいなんだよ。」

「だいたい、なんでこんな中途半端な時期に新人が入ってくるんです?もう8月ですよ。どうせ訳ありなんでしょう?」

「う~ん、まぁ訳はなくもないんだが…。」

やっぱり、何かあるのかと社はため息をつく。自分が忙しいだけなら何とも思わない。しかし、今はチーフマネージャーだ。専任の担当俳優こそいないものの部下がマネージメントする俳優3人の責任は自分にある。さらに部下2人は今年入社した新人で、どうにかこうにか基本を教え込んだ所だ。まだまだ一人前にはほど遠い。俳優、マネージャーともどもフォローが必要なのにこの上もう1人『訳あり』の新人なんて冗談じゃない。

「松嶋部長、勘弁して下さい。新人2人で手いっぱいです。」

「そこを何とか頼まれてくれないか。他の奴にはとてもじゃないが頼めないだ。」

「なんなんです?その訳っていうのは…。」

ここまで松嶋がいう訳とはなんなのだろう。つい好奇心が勝って聞いてしまったが、これが仇となった。松嶋の顔が急に明るくなる。

「いやっ、伺ったからって引き受けるというわけではないです。」

慌てて否定するがもう松嶋は引き受けてもらったものとして話し始めた。

「この時期になってしまったのは、アメリカ留学から帰ってきたからなんだ。それと社長の遠縁にあたるらしい。まぁ、これはそんなに考慮にいれなくていいと社長自身が言っていた。俺とお前以外は知らないことだ。社長からも遠慮せずにビシビシ鍛えてやってくれと言われている。ただ1番厄介なのは…。会ってもらえばすぐわかる。」

他の者に伝える気がないことをあっさりと明かしたということは社長自ら社に世話させると決めていたということだ。既にあの社長が決定したことを社ごときが覆せるはずがない。深く息を吐き出して仕方なく聞いた。

「で、誰を担当させるんですか?」

「それはまだ決めてない。9月にオーディションがあるだろう?それで適当なのがいたら担当させるそうだ。それまではお前の補助ってことでいろいろ教えてやってくれ。」

「どうしても断れないんでしょうね?」

「あぁ、残念ながら。」

「…いつから出勤するんです?」

「今度の月曜からだ。」

「 ! もう金曜ですよ。」

「だな。」

松嶋は諦めろと目でいって、これで話は終わりだと言わんばかりに電話をとる。

「呼びたててすまなかったな。電話しなきゃならないんだ。」

「失礼します。」

社は俳優セクション部長室をあとにした。

結局、訳ありの訳は教えてもらえなかった。社長のことだからどうせ飛んでもない訳なんだろうとため息をついてデスクに戻る。


仕事は嫌いではない。月曜日が憂鬱なんてことはないのだが今度の月曜日は別になりそうだ。そもそも、この業界は世間様のカレンダーなんて関係ない。何年か前に社長が売れっ子タレントのマネージャーが倒れたのをきっかけにチームマネージングを導入してチーフマネージャー1人にマネージャー3人で1チームという体制を作った。

タレントや俳優にも最低週に1日は休みを取るようにスケジュールを組むように指示は出されているが売れ始めたばかりとかドラマ等の撮影があればそうもいかないのが現状だ。それに付き添うマネージャーも同じ。タレントや俳優とは違う気遣いや細やかな配慮が必要とされるマネージャーは心労がたまり易い。


そこで担当マネージャーが休みの日にはチーフマネージャーが代わりに現場に行くことにした。これは休みを取るだけではなく、マネージャーの質をあげることにも繋がる。チーフマネージャーはベテランだ。代わりに現場に出ることで担当マネージャーが気づかないことに気づいてアドバイスすることができる。また、各スタッフとも顔見知りで新人や中堅のできない根回しもできる。チームマネージングは新人マネージャーの育成に役立っているのだ。

さらに担当タレントや俳優の売り出し方はチームで話し合って決定される。新人のためでもあるし、これは中堅やベテランのためでもある。ついついベテランは同じような売り出し方をするクセがあるが新人のまだ枠にはまらない考え方は思わぬ収穫を生むことがある。

この方法を採用してからは、LMEの芸能人は飛躍的に活動範囲を拡げた。もとより大手だったが業界最大手になって久しく他の追随を許していない。それでも驕りがないのはひとえにローリィの『愛』という信条があるからだろう。

とはいえ、チームにマネージャーが4人は異例だ。社の覚えている限り、前例はない。正確には1回だけあったが、それは、チーフの病気が原因で一時的に他チームに振り分けた時だけだったはずだ。しかもその時は同じチームに新人が3人なんてことはなかった。新人が2人いるだけで既にイレギュラーなのに…。社は頭を抱えた。






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おかしな改行が読みづらくてすみません。

何度直しても直りません。

スマホで書いて貼り付けたからでしょうか...。