蓮が一旦退出してしまうと、残された京子に質問が集中した。


「久遠さんが敦賀さんとのことをご存知というのはどういうことですか?京子さんから話されたんですか?久遠さんと敦賀さんは共演したとき以外にも面識があったんですか?」


京子が答える隙もなく矢継ぎ早に質問がされた。質問という形をとってはいるがそれは三角関係が確定事項のようなニュアンスを含んでおり内心で苦笑がもれる。キョーコはこうやってスキャンダルは作られるのだとおかしな感慨にふけっていた。


「京子さん!やはり何か後ろ暗いところがあるのではないですか?」


「いいえ、そんなことはありません。先ほどのご質問ですが...久遠さんに私から話したことはありませんが、話さなくてもわかるんです。」


「では、敦賀さんが久遠さんに話されたんですか?面識があるということですね。その上で独身男性の家にあんな時間に訪問するなんてよっぽど信頼されているのか...。それとも。」


そこで別の記者が割り込んできた。挙手で質問なんてはなから守られていない。


「何でも敦賀さんとのキス写真が存在したとか...。その点はどうですか!?手料理は許してもキスはダメでしょう。いくら久遠さんがアメリカ人とはいえそれはねぇ?」


どこで仕入れた情報なのか爆弾を落とされて京子はうろたえる。まさか、あの時の写真があるのだろうか。蓮は処分したから大丈夫だと言っていたので安心していたのだが...。実は処分されていなかったのだろか。どんな写真かはわからないが完全な素のキス姿なんて恥ずかしすぎる。絶対にアホ面さらしているに決まっている。そんなものが世の中に出回るなんて瞬死に値する。


「そんな写真があるんですか?全くわかりません。」

「キスしていたことは認めるんですか?」

「...。」

「なんでも敦賀さんが京子さんを現場まで送っていったときのものだとか...。まるで恋人同士のようだったと伺っています。そして敦賀さんが写真を買い取ったとか...。やっぱりそれは公にできない関係ということでしょう?」


写真を処分したことは聞いていたが買い取ったなんてことは聞いていない。一体いくら出したのだろう。なぜそこまで...。こんなスキャンダルがなくても今日の記者会見で蓮の正体を明かす予定だったのだ。余計な出費なんてしなくてよかったのに...。とはいえ、アホ面が出回らなくて良かったなんてことも思ってしまった。


そこへ金髪のウィッグをつけてコンタクトを外した久遠が戻ってきた。座る際にキョーコの耳元で小さく待たせてゴメンとつぶやいた。

このときも一斉にフラッシュがたかれた。今日のこの会見だけでどれだけにフィルムが使われているのだろう。なんとなくもったいない気がするのはキョーコだけだろうか。


「お待たせして申し訳ありませんでした。」

久遠が流暢な日本語で応えた。

「敦賀さんはご一緒じゃないんですか?」

「彼とは同席できないんです。」

にこやかに答える久遠に記者たちはいきりたつ。

「京子さんを巡って三角関係だからじゃないんですか?」

「プライベートな彼女は全て俺の物です。」

あまりにもキッパリと言い放つその姿は、女なら誰もが言われてみたいと思わずにはいられないものだった。会場の女性からはため息がもれる。


「それはさきほども伺いましたが詭弁ではないですか?!」

「詭弁と言えば詭弁かもしれません。でもそうでも思わないと彼女をどこかに隠して誰にも見せないようにしたくなる。女優京子の未来をつぶしてしまいたくなるくらいに...。そう思う反面、役者としてこれほど一緒に芝居をしていて興奮する女優もそうはいない。そして女優京子は俺一人の物ではない...。で、妥協してプライベートな彼女は全部俺の物だって思い込むことで自分を慰めてるんです。実際は彼女は物ではないのでちっとも俺の言う通りにはなってくれないんですけど。」

はにかんだ久遠に今度は会場中からため息がもれた。もう性別なんて関係なくなっている。そんな不思議な空気の中であるカメラマンがぽつりとこぼした。


「あれ、敦賀さんと同じ服ですね。」

静かになってしまっていた会場でその声は意外によく響いた。皆が久遠を凝視する。カメラマンたちはカメラのデータを確認するとなるほど同じ服だ。よくある濃紺のジャケットにシャツだったため気づかなかったのだ。久遠とキョーコは互いを見て微笑んだ。


「すみません。今朝の雑誌のことで皆さんにご迷惑をかけたことを再度謝罪させてください。実はこの会見は俺の素性を明かすことがもともとの目的だったんです。WOUNDEDMOONの撮影中から決まっていたことでした。」


久遠はウィッグを外すと黒髪を手で梳いて適当に直した。

会場中がポカンとなる。黒髪の久遠?碧眼の蓮?

久遠は苦笑いで言葉を継いだ。


「敦賀蓮と久遠は同一人物です。敦賀蓮という芸名で仕事をさせて頂いていました。」

ややあって驚きの声がそこかしこであがった。フラッシュもさきほどの倍は光っている。

「それは、どうして?クーの息子さんというのは本当ですよね?」

記者たちもなにがなんだか分からなくなってしまっている。確実だと思われることまで怪しく思えてきた。


「父はクーヒズリで母はジュリエナ、アメリカ国籍です。それは間違いありません。生意気なようですが敦賀蓮としてプライベートを一切明かさなかったのは両親の子どもとしてではなく、ひとりの俳優としてみてほしかったからです。プライベートを明かそうと思ったのは受賞したことで区切りがついたと思えたからです。」


「敦賀さんは京子さんと共演されていましたよね。その頃からお付き合いされていたんですか?」

「いえ、先ほど言いましたが敦賀蓮は彼女にとって先輩でしかなかったんです。彼はその頃からずっと彼女を愛していたんですけどね...。」


久遠に悩ましげな視線を送られてキョーコは赤面した。本当に久遠はいじめっ子だと思う。何もこんな場でそんなこと言わなくてもいいのに。

「ごちそうさまです。京子さんはいつから敦賀さんが久遠さんだと知っていたんですか?」

会場は先ほどとは打って変わって幸せな婚約会見へと早変わりした。蓮=久遠なら京子がどちらと一緒にいても非難されるイワレはない。

「WOUNDEDMOONの撮影の少し前からです。オルティス学園の撮影でアメリカにいた時にMr.クーの家に遊びに行かせていただいたときに初めて久遠さんに会いました。」

「撮影中はすでにお付き合いをされていたということですか?」

「それは違います。WOUNDEDMOONの撮影が終わってからです。」

京子が答えると蓮が口をはさむ。

「ずっと口説いていたんですけどやっとOKをもらえたのが撮影の打ち上げだったんです。」


「電撃婚約には驚いたのですが、お二人にとってはそうではなかったのですね。」


「えぇ。」

「いえ。」


久遠と京子の声がかぶった。

二人はお互いを見ると幸せそうに微笑んだ。異なる返事に記者たちがオヤっと疑問の顔になる。


「さっきも言いましたけど、俺は敦賀蓮として出会った時から愛してましたからようやく婚約にこぎつけたと思っています。」

「わっ、私はそんなこと全然思ってませんでしたから久遠さんにお付き合いを申し込まれたときはもうビックリしてしまって...。その上、婚約なんて話が急すぎていまだに信じられません。」



「でも、確かプロポーズは京子さんからっておっしゃってませんでしたか?」

記者ににこやかに聞かれて京子はまたしても赤面する。

「で、ですからあれはそんなつもりではなかったんです!!」

「でも、俺にはそう聞こえたよ?」

甘々な顔で久遠に覗き込まれてシドロモドロになる京子が何とも言えず可愛らしいが、どうみてもイチャついているようにしか見えない。

「えぇ~。プロポーズの言葉はやっぱり教えて頂けないのでしょうか?」

二人の世界から帰ってきた久遠が答えた。

「すみません、二人だけの秘密ってことで...。」


「秘密と言えば、さきほど話に出ていたキス写真は存在するのですか?」

「えぇ、ありますよ。」

クオンがさらっと言ってのけた。

「買い取ったというのは?」

「本当です。」

「なぜですか?日本ではあまり人前では褒められたことではありませんが隠し撮りされたものでしょう?婚約者なら構わないと思うのですが。」

「だって、あんな彼女の顔、誰にも見せたくないじゃないですか。あれは俺だけの物です!それにあの時は敦賀蓮でしたし...。さきほどプライベートと女優の彼女は違うと言っておきながら、実際の自分の行動が違うなんて格好悪いですよね。あの時は彼女がしばらくロケで不在になる前だったので、つい...ね。本当にお騒がせして申し訳ありませんでした。」


久遠のノロケ話に京子は頭から湯気が出るのではないかと思えるほど赤くなっていた。もう、とにかく早く終わってほしい。身のおきどころがないとはこのことだ。


「えぇ~お時間も迫ってきましたので、次の質問を最後にしたいと思います。」

突然割って入った声に司会者(?)がいたことを会場中が思い出した。


「それでは最後に、今後は久遠さんとしてお仕事をされるのですか?」

「基本は久遠で仕事をしますが、敦賀蓮としてオファーをいただければ蓮としても仕事を受けるつもりです。」



しばらくはマスコミはこのニュースで持ちきりだった。本放送が終わり、BS放送での最終回前にクーがジェフの代役をしたことが明かされたが、そのそっくりぶりに改めて親子であることがマスコミの話題にのぼったのだった。