久遠は追い詰められていた。



キョーコを迎えに行けば本当に嬉しそうに瞳を輝かせてくれるし、別れのときは本当にせつなそうな瞳で見上げてくる。家に一人でかえるご褒美(?)にさよならのキスぐらいしたっていいのではと思うがほっぺにチュで終われない自信があるので、大将の顔を思い出してどうにか我慢している。


ただ歩いているときでさえ危険すぎるのだ。一緒に歩いていてこぶし3つほどあった距離が今はこぶし1つ分になった。人の多いところだとその距離はほぼないと言ってもいい。雑踏ならば手をつないでくることもある。久遠の手をとってテヘヘと笑う様は可愛くて抱き寄せてしまいそうになる。


もちろん家が一番危ない。誰かがいればいい。けれど、キョーコは久遠の小食を理由に久遠のアパートにやってきて食事を作るのだ。ソファーに座れば膝が触れ合うし、うっかり振り向こうものならキスしてしまいそうな距離だ。当然、甘い香りは否応なくしてくるし、体格差からくる上目使いは秒殺ものだ。この頃ではそれにウルウル乙瞳にほんのり赤い恥じらいほっぺまでつくようになって1秒ともたずに瞬殺されそうだ。





その日もキョーコは食事を作りに来ていた。


仕事の都合でしばらく会えないからと作り置きもしていくつもりらしく大量の食材を持ってやってきた。


「あっ、お醤油切らしてたの忘れてた...。」

「へ~。キョーコが忘れるなんて珍しいね。」

「そう?う~ん...。洋食でもいい?それならどうにかなりそうなんだけど...。」


腕を組んで考える様は可愛らしくて微笑ましいな...。なんて思っていたのもつかの間、つい視線が組んだ腕のむこうに行ってしまった。腕を組んだせいで胸元が強調される。白いブラウスに下着の柄まではっきりと見えてしまう。決して大きくはないが、形のいいそれをこれでもかと見せつけられ久遠にしてみればたまったものではない。どうにか視線を顔に戻し声を出した。


「少し待っててもらえれば、買ってくるけど?」

「ほんとう?じゃあ他の用意をしてるからお願い。」


キョーコにニッコリと微笑まれ、なんとなく罪悪感を感じてしまう。本当は密室に二人でいるのがいたたまれないのだ。久遠は逃げるようにして部屋を出た。




あらかた、キョーコが料理を終えても久遠は帰ってこない。

使い終わった調理器具を片しながらキョーコは考えていた。


できることはしようと自分なりに努力はしてみた。いつもより近づいてみたり手をつないでみたり...。でも久遠は自然な距離を保つようにすっと離れてしまう。二人きりにならないようにしているのも、ありありとわかる。それどころか視線を逸らすことも多々ある。今だって、無い胸を強調したりしてみたのに何事もなかったように会話を続けた。


やっぱり私には女としての魅力がないんだろう。だとしたら、別の女性がいるんだろうか。バカな考えだとは思っても一度思ってしまうと頭から離れない。いっそのこと女性の影があったほうがスッキリするのではないかと、キョーコは久遠のベッドへと近づくとシーツをめくった。ドラマでみるようにピアスの一つでも落ちていないだろうか。目を皿のようにして探したが女性の痕跡など何一つなく、シミ一つないシーツがあるばかりだ。香水の残り香でもないかと匂いもかいでみたが、久遠の匂いがするばかりでせつなくなる。もうずいぶんと抱きしめてもらっていない。シーツなんかじゃなく本物の久遠に抱きしめてもらって温もりを感じたい...。久遠はどうして私と結婚したいんだろう?やっぱり便利な家政婦なんだろうか。







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「ただいま、ごめんね。いつものスーパーに行ったら、売り切れで少し足を延ばしたら遅くなっちゃった...。キョーコ?」


久遠がキョーコに声をかけたが返事がない。電気はついているし、久遠のアパートから一人で帰れるわけもない。久遠はスーパーの袋を床におくと室内を見まわす。壁はないから首を動かすだけですぐに室内は見渡せる。見える所にはいないから洗面所かと思いノックするが返事はない。おそるおそるドアを開けるが誰もいなかった。

まさか連絡もなく遅くなったので怒って帰ってしまった?いや、キョーコなら電話をして確かめるだろう。それどころか心配して電話をくれてもよさそうなものなのに、電話はなかった。あとこのアパートで人が隠れるとしたらベッドのパーテンションの影だけだ。そこにいなかったらどうしようと不安になりながらのぞいてみると、キョーコがベッドに横になっていた。規則的な寝息も聞こえる。どうやら待ちくたびれて眠ってしまったようだ。


眠っているキョーコなら大丈夫だと思い久遠はベッドに近づいてそっと腰をおろす。自分からこんな風に近づくのは久しぶりだ。キョーコの甘い匂いを思う存分吸い込むと、キョーコが寝返りをうった。一瞬起きてしまったのかとドキリとするがそうではないらしく、寝息はそのまま変化はない。久遠は身構えて固くなった体の緊張をほどいた。ほっとした途端にキョーコのあらわな太ももが目に入る。均整のとれたキョーコのパーツの中でも最も美しいと思っているところだ。邪な考えを振り払うように無理やり視線をひきはがす。上半身に向けられた視線の先はこれまた心臓に悪いとしかいいようのないものだった。ブラウスのボタンが2つほど外れていて胸の谷間が見えていた。久遠は仕方なくベッドを離れることにした。そこで初めてキョーコの顔に目がいった。



頬に涙の痕がある。怖い夢でも見たのだろうか。今、見る限りではすやすやと穏やかに眠っているようにみえるのだが。久遠はキョーコの肩を優しく揺すった。


「キョーコ、起きて?」


何回か揺するとようやくキョーコが目を覚ました。目は開いたのだが、寝ぼけているのか何となく焦点が定まっていない。


「久遠?本物?」

「クスッ。どうしたの?怖い夢でも見た?」

キョーコは久しぶりに神々しい久遠の笑みを間近に見てこれが夢なのか現実なのかわからなかった。こんな笑みをみせてもらえることはもうないと思っていただけにまだ夢のなかなのだろうと思った。

「夢?夢ならいいのに...。それなら抱きしめてもらえるもの。...久遠?」

キョーコはベッドに横になったまま久遠に向かって腕を広げた。


それは『抱いて』ということか?あの恥ずかしがり屋のキョーコが?頭の中が真っ白になった久遠はわけがわからず硬直してしまい、ただキョーコを見下ろしている。


「夢でもイヤなの?」







☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


お久しぶりです。

って、ここのところ毎回言っている気がしますが。

他のマスター様もおっしゃっていますが、しばらく書いていないと書き方を忘れるんですねぇ。

えらく時間がかかってしまいました σ(^_^;)

これからはもうちょっと間をおかずにアップできると思います...。多分...。