キョーコがキョーコなりに久遠を誘惑しようと必死になっている最中も結婚式の準備は着々とすすめられていた。撮影の合間を縫ってクー宅で食事がてらさまざまなことを話し合った。


ドレスはジュリエナと二人で手直しする箇所を決めた。ジュリエナが縁起が悪いから式前に花婿の久遠には見せないと言い張ったからだ。花嫁のドレスに合せた物を着たいからといってもダメだった。どうせ花嫁の引き立て役なんだからオーソドックスに黒の燕尾とかフロッグコートでいいんじゃないと言われてしまった。ジュリに逆らえるものは誰もいないし、ジュリのセンスを久遠は信じている。キョーコに似合わないような手直しはしないだろうと仕方なく引き下がった。


キョーコは初めてドレスを見た時にとんでもないことを言ってしまったと後悔した。中途半端にオーダードレスを作るよりも高価な代物と一目見ただけでわかった。それは本当にお姫様が着るような素晴らしいドレスであったけれども、それを自分に合せて手直しするなんて畏れ多すぎてめまいがした。辞退しようとしたが、嬉嬉としてアイディアを出すジュリをとめられるわけがない。キョーコは気に入っていたのだがパフスリーブはキョーコには大きすぎるという理由で取り外されノースリーブになった。いくつかついているリボンはウェストの大きなものひとつを残して取り外され、その代わりにパールがちりばめられることになった。その他にもジュリは様々なアイディアを出したがキョーコがなるべく直さないで済むようにお願いしたので大きな手直しはそれだけで済んだ。


式はカナダに近い湖のほとりにある教会でおこなわれることになった。教会はこじんまりとしてはいるが三角屋根のステンドグラスが美しい教会だった。教会は私有地にありマスコミが入ることはできない。教会のそばにある屋敷でパーティーも行える。美しい山脈に湖とロケーションは抜群なのでそこに決めた。


ドレス、式場、料理...については少しもめた。ジュリがケーキを作ると言ったからだ。これはクー、久遠、キョーコ全員が全力で阻止した。キョーコが感謝を込めて自分で作ると言ったことで渋々ジュリは引き下がった。


そんなある日、クーが嬉しそうに久遠とキョーコに言った。


「プレゼントがあるんだ!」

「プレゼントですか?」

突然のことにキョーコが首をかしげる。

「そうなんだ。お前たち新居が決まってなかっただろう?ちょうどいい物件があったのでプレゼントしようと思ってな。」

「はい?」

キョーコは耳を疑った。新居をプレゼント?まるでおやつのケーキを買ってきたように言われ面食らってしまう。

「父さん、気持ちは嬉しいけど二人で気に入るものをみつけようと思ってたんだ。とりあえずはどこかにアパートでも借りてさ。」

久遠も慌ててクーを制する。新居くらい久遠だって買うだけの蓄えはある。親に用意されるなんて男の矜持にかかわる。

「なに心配するな。絶対に気に入るさ。」

「でも...。」

「建物はしっかりしているから好きなようにリフォームすればいいだろう?本当はリフォームもしてしまおうかとも思ったんだが、そこまではやりすぎかと思ってやめたんだ。お前たちの好みもあるだろうしな。あっ、でもいききがしやすいように地下通路は作るように頼もうかと思っているんだ。庭の壁はどうする?とっぱらってもいいし中門を作るか?」

「地下通路とか中門とかいったいどういう意味です?」

「な~に。せっかく隣が空いたんだ住まない手はないだろう?」

「隣って...。」

不安がるキョーコにクーは窓の方を指した。

「隣だよ。孫が生まれたりなんだりと手狭になったので引っ越すんだそうだ。新婚の二人ならちょうどいいかと思って。それに子どもができたら、うちとそっちの家の間に増築したっていいしな?一度、パーティーに行ったことがあるがスペイン風の明るい家でいいと思うんだが...。それともゴシックぽいほうがいいか?」

「建築様式の問題ではありません!」

久遠がクーに声を荒げて答えるがクーはどこ吹く風だ。


「じゃあ何か?あぁ、やっぱりベッドルームが5つでは狭いと思うか...。そうだ、間にゲストハウスを作ったらどうかな?それなら、どっちの客がきても使えるし。やっぱり庭の壁はとっぱらって自由にいききできるようにゲストハウスと庭を整備しよう。とはいえ、リビングは80㎡はあったと思うしバスルームはそれぞれについているし当面は問題ないだろう。ただ、少しキッチンは手を加えたほうがよさそうだったな。そこはキョーコにまかせればいいだろう?」


どんどんと話をすすめるクーにキョーコは青くなる。ベッドルームが5つしかないって?それだけでとんでもなく豪邸だ。それに何より、クーの家の隣ということは超がつくほどの高級住宅街というわけで...。それをプレゼントって?!とにかくこれは絶対に断らないといけないと思っていたところへ久遠が大声を出した。


「父さん!!!いい加減にしてください。」

これまで黙ってニコニコと聞いていたジュリが口を開く。

「まぁ、久遠たら。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわよ。何が気に入らないというの?」

「勝手に俺たちの新居まで決めないで下さいと言っているんです。」

「まぁ、勝手に決めてしまったのが嫌なのね?なら、今から見に行きましょう。それで二人で決めればいいわ。」

「...。」

「だって、アメリカに住むんでしょう?仕事も続けるのよね。それなら、ここは仕事に行きやすいし治安もいいわ。候補の一つとして見るだけでも損はないでしょう。そうと決まれば善は急げよ。クー、お隣に電話して。」



電話をすると快諾してくれて久遠とキョーコで見に行くことになった。

渋々見に行ったが、キョーコの瞳がみるみる輝き始めたのを見て久遠は考えを改めた。

キョーコとジュリは世間で言う嫁姑の争いとは無縁な気がする。それならば、自分がいない時に隣に両親がいるほうが安心かもしれない。確かにジュリの言うようにここは治安もいいし、プライバシーも保ちやすい。そんな理由でなかなか空きがないのも事実でこのタイミングで空きが出るなんてなんともラッキーなことだ。


「キョーコ、気に入った?」

瞳を輝かせるキョーコに久遠は問いかける。

「えっと...。」

明らかに気に入った様子だが、そう言ってしまうと本当にクーが買ってしまうのではないかと思って言えないようだった。

「大丈夫だよ。父さんには買わせないから。もし、将来家を建てるとしたらこんなのもいいね?」

「将来?それなら....。」

息を吐き出すとキョーコは一気にしゃべりだした。


「白壁とオレンジの屋根がとっても明るくていいわね。それにパティオっていうの?中庭の噴水が涼しげで、そこで優雅に午後のティータイムなんていいなぁ。リビングも天井が高くて開放的でいいし、天井のシーリングファンもレトロな感じでいいなぁ。マスタールームのお風呂も広くて白と青の花柄タイルが素敵だったし...。あっ、でもこんなに広いとお掃除がたいへん!!」


夢見る割に現実的なことまで考えるのがキョーコらしいなとつい微笑ましく思ってしまう。


「キッチンは?」

「私にはちょうどいい広さだったけど、この家の広さを考えるともう少し広くてもいいかと...。それにオーブンとかは随分旧式だったような...。でも、窓があって明るくてお料理は楽しくできそう!」


「ふ~ん。」

何やら考え込む久遠にキョーコは逆に質問した。

「久遠はどんな家がいい?」

「そうだな...。俺はキョーコがいればどんなところでもいいけど。この家は確かに居心地がいいね。リビングも広すぎないし、マスタールームも落ち着く感じだし...。キョーコは父さんたちの家が隣って嫌?」

「まさかここに決めるわけじゃないわよね?」

恐る恐る確認するキョーコに久遠は『もしもだよ』と言って笑う。

「嫌な訳ないじゃない!!こんなに良くしてもらってるのに!毎日は...忙しいから会えないと思うけど、近くにいたらすごく楽しいと思うもの。」

「そう...。」


後日、リフォーム案を見せられてキョーコは驚愕した。久遠がクーの隣家を購入したというのだ。




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お久しぶりです。

今回も無くてもいい話ですが、こんな風に結婚準備がすすめられるのではないかなぁという思いつきの回です。

次回からはキョーコの誘惑大作戦(?)に戻ります。

多分...。