ベッドに二人で座りながらしばらくは黙っていた。


「WOUNDED MOON」の撮影の合間には二人で他愛ない話をしてすごしていた。時には黙って空を眺めていたが、それは苦ではなく心地いい時間だったのに今はなんて息苦しいのだろう。おかしい、婚約したのだからあの時より近づいたはずなのに...。


沈黙が辛くなったのかキョーコが口を開いた。


「...明日にはパリに戻るんですよね?パリってどんなところですか?」

「そうだねぇ。古い寺院や美術館がたくさんあって街並みもすごく趣がある。セーヌ川沿いとかはふらりと歩くのもいいしね。そういう意味では京都に似てるかも。でも、食事は俺には重い...かな?」

「いつか行ってみたいですぅ。クスッ。確かに久遠さんにはフレンチはつらいかもしれませんね?!」

そうなんだとパリでの食事について久遠が面白おかしく話して聞かせるのでキョーコも段々とリラックスしてきた。いつか一緒に行こうとパリでのあれこれややキョーコの仕事のことなどを話すうちに「WOUNDEDO MOON」の時のような穏やかな時間が戻ってきた。


「明日にはまたパリですよね...。」

キョーコが寂しそうに言うのが久遠には何とも嬉しい。いや、会えないことは久遠も寂しいのだが、寂しそうにしてくれるキョーコを思うと嬉しいという何とも複雑な気分だ。

「うん。明後日にリハですぐにショーがはじまるよ。」

「美しいんでしょうねぇ。」

きらびやかな世界を思い浮かべてキョーコはため息をついた。

「そう?コレクションはけっこう奇抜な服とメイクが多いけど。あの格好で町を歩いたら大変なことになると思うけどね。」

「もう!選ばれた人だから着られるのに...。」

「選ばれたって...。キョーコちゃんだってその気になればできるよ?」

「むぅっ。そんな慰め言われても嬉しくない。」

キョーコの膨らんだ頬を久遠は人差し指でつつくとプスッと空気が抜けた。

「はは。美しさでは誰にもヒケをとらないけど身長がね少し足りないかな?!こればっかりはどうにもならないから。それにあの舞台には本音を言えば立ってほしくないな。」

「どうしてです?やっぱり無理だと思ってるんでしょ?」

キョーコはつつかれた頬を再び膨らませた。拗ねているからなのか敬語が抜けていてコーンとして再会したころのようで気安い感じがいい。撮影のときは目上だからと敬語に戻ってしまっていたが、このまま以前のようになればいいと久遠は思う。

「ステージの裏は早着替えのためにほとんど裸なんだ。キョーコちゃんの肌を誰かに見せるなんてとんでもない!」

「裸?!久遠さんも?」

「下着ははいてるよ。あぁ、でも服によってはラインが出るから脱ぐこともあるな。でも男はあんまりないけどね。女性の方がいろんな服があるから脱いでることが多いね。」

「女の人も?!」

「あんまり男とか女とかは気にしてないよ。そんなこと気にしてると仕事にならない、すぐに出番だもの。」

「...。」

「あれ?ヤキモチ?」

キョーコにアヒル口で上目づかいに見られて、そんな姿も可愛らしくてつい久遠はからかってしまう。

「いいです。仕事だから...。」

「キョーコちゃんが見たければいつでも脱ぐけど...。いつだったか人形作りのために視姦してたし?今度からは遠慮しないで?」

久遠がシャツのボタンに手をかけて脱ぐフリをすると、慌ててキョーコはベッドの端まで後退してバランスを崩した。久遠がキョーコを支えようとしたが間に合わず二人ともベッドから転げ落ちる。勢いがありすぎてさすがに久遠でもキョーコの頭と腰を手でかばうのが精いっぱいで上にのる形になってしまった。久遠がおそるおそるキョーコを見るといつかのダークムーンごっこの時のように目を見開いて固まっている。


驚いているのか?嫌がってはいない?それならばと久遠はキョーコを抱きしめて甘い香りを胸いっぱい吸い込んだ。キョーコも段々と覚醒してきたが久遠セラピーについうっとりとしてしまう。キョーコが久遠の背中に手を回したのに気づいた久遠はこれ幸いと手を動かそうとした...。



「なんで、床でしてるんだ?」

扉がいきなり開けられ、突然現れたローリィに久遠は鋭い視線をむけた。ローリィは意に介せずニヤニヤしている。


絶対、わざとだ!もう少しだったのに!!せめてキスぐらいまで待ってくれてもよさそうなものなのに!!!


キョーコは自分の置かれた状況とローリィの出現にパニックになり青くなったり赤くなったりしながら『離して』と久遠の胸をたたいている。仕方なく体をずらしキョーコを立たせてやるとキョーコは『久遠さんなんてキライ!』と言って部屋を飛び出してしまった。


「『キライ』だとよ?どうする?」

「どうするも何も、邪魔したのはボスですよ。これで婚約破棄でもされたらどう責任とってくれるんです?」

久遠は恨めしそうにローリィを見た。これで本当に嫌われたらどうしてくれよう。嫌われはしなくても、さらに遠くなったような気がする。


「この程度でか?俺は時間だって教えにきてやっただけだぜ。挨拶いくんだろ?それとも諦めるのか?」

ローリィのからかう気満々のニヤニヤはとまらない。

「諦めるって何をです?ご挨拶には伺いますよ、絶対に。これ以上待てませんから。」

「ナニを待てないんだか...。青いな。」

「なんとでも言ってください。ところで彼女は...。」

「あぁ、心配ない。テンが最上君をいじりたいって言うから連れて来たんだ。今頃はメイクしてるだろう。」



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


久遠さん?!

あなた、我慢するって言ったばっかりなのに。

あわよくば何狙ってるんです?


以上、セルフつっこみでした。



いつものことですが、パリのこともコレクションの裏側もイメージの世界です。すみません (^^ゞ