ボス、あなたはどこまで俺で遊べば気が済むんですか!!!!



あのあと、休息をとれとあれよあれよという間に急き立てられて客間に押し込められた。

パリでの打ち合わせを終えすぐに飛行機にのり、確かに空港から直行だった。だるまやの店じまいまでまだ3時間はある...。


だからといってこの仕打ちはないでしょう?!


ボスの家の客間にしてはえらく質素な部屋だった。いや、家具調度は高級品ではあるのだが...。

ソファーはあるがラブチェアー。正直、規格外のサイズの久遠一人でも狭いくらいだ。あとはベッド。こちらは一般的なキングサイズで蓮のマンションにあったベッドよりも小さい。もちろん数はひとつ。一縷の望みをかけてベッドのむこうのドアを開けてみたがそこはバスルーム。こちらは部屋とは対照的に5人くらいでも入れそうなほど広い。


もちろん、キョーコも一緒だ。久遠は祈らずにはいられず、心の中で十字を切った。


ボス、オオカミのいる囲いに仔羊を放って何をさせる気ですか?

あぁ、神様!どうか正しい行いができるようにお守りください!!!




「キョーコちゃん?」

窓から庭を見つめるキョーコに久遠はそっと手を伸ばした。肩に手をおき振り向かせようとしただけなのだが、キョーコが身を固くするのがわかった。その途端に久遠はビクリとして慌てて手を離す。もしかして、まだキョーコは自分のことがこわいのだろうか。悔やんでも悔やみきれないのは過去の自分の行いだ。婚約はしたものの『そういったこと』には恐怖心が募るのだろうか?久遠はゆっくりと振り向いたキョーコの瞳に浮かぶものが何なのか見極めたかったがキョーコは一瞬下を向いたかと思うとすぐに顔をあげ何でもない顔を作ってしまった。


「久遠さん、お疲れでしょう?時間になったら起こしますからベッドで休んでください。私はソファーで台本でも読んでますから。」


キョーコの言葉が拒絶なのか単なる労いなのか久遠には判別できなかった。それとも歩く純情さんな彼女にはそっち方面は想像できないのか?いや、そんなことはないだろう。実際に経験があるかないかは別にして未緒ではベッドシーンもしていたんだ。それなりにわかっているはず...。だとするとやっぱり拒絶のほうなのか?


「久しぶりに会えたんだから話でもしない?明日にはまたパリに行かなきゃいけないしこんなにゆっくりする機会はしばらくないよ?」


「...。そうですね。だったらお茶でも淹れます。」


キョーコは一呼吸置いてそう答えるとミニキッチンでお茶を淹れた。お茶は淹れたものの、果たしてどこで飲もうかと考えてしまう。ソファーはある。あるにはあるがキョーコ一人ならちょうど良さそうだ。でも、久遠と座るとなると狭すぎる。それこそ久遠の膝にのることになりそうだ。あとは...ベッド?あれならクッションもたくさんあるし寄りかかって話すにはちょうどよさそうだ。大きなソファーと思えなくもない...。


キョーコが逡巡していると久遠が苦笑いを浮かべる。断られたら立ち直れないかもしれないと思いつつ提案した。

「ソファーは小さいよね...。ベッドでいい?」


頷きはしたもののキョーコの顔はさえなかった。お茶を持って立っているのもどうかと思い久遠は慎重にキョーコに触れないようにベッドに上がる。お茶ののったトレーを真ん中に二人の間には適度な距離ができた。クッションを積み重ね二人してベッドヘッドにもたれかかりお茶をすする。



ま、まさか今日?

そ、そんなことないわよね?

だって、お付き合いは手をつないで腕を組んでキスをしてって順番があるでしょう?!久遠さんはイロイロ知ってるかもしれないけど私は初心者なんだし、手加減してくれるわよね?

で、でもそんなことすっ飛ばして婚約しちゃったってことはそういうことなの?『未緒とジェフ』はベッドを共にしていたけど、あれはお芝居だし...。あれ?でも私キスしちゃったわよね。アメリカで指輪をもらったときに...。しかも私から!!!

ってことは次は...?えっ?!そういうことなの?どうしようそんな心構えなんてできてない!!こんなのいきなりすぎるでしょう?!


キョーコが思考の小部屋に籠っていると久遠がカップをトレーに置いた。たいした音はしなかったのにキョーコは久遠の動きにびくりとしてしまう。


「クスッ。大丈夫だよ。とって食べたりしないから。ただ話をするだけだよ。婚約したからって無理にどうこうする気はないよ。キョーコちゃんの許可がなければ何もしない、約束は守るよ。」