『本郷』のスキャンダルが出きったところで、ジェーンがインタビューを受けることになった。表向きは『コンラッドCEOの妻の役割』というテーマで経済界の番組だった。しかし、ジェフのことに触れずにはいられない。というよりも、その為のインタビューだった。インタビュアーも質問も編集も全て押さえてある。ジェーンは政治家についているイメージコンサルタントから話し方、視線の配り方、ボディランゲージを学んだ。その甲斐あってものの見事に美談に仕上げられていた。見方によってはやらせと言われても仕方ないほどだったが、語った内容に嘘はない。頭の固い年寄の中には眉を顰める者もいたが、概ね温かく受け入れられた。ウィルがジェフを息子と言ったことと誹謗中傷には断固とした措置をとると宣言したのも効いてはいたのだが...。『コンラッド』を敵に回す勇気のある者はそうはいない。


『本郷』のスキャンダルもジェーンのスキャンダルも落ち着きをみせ、記者たちはそれぞれの家の前からいなくなり、ほぼ今まで通りの生活を送れるようになった。やや落ち目と見られていたトンプソンファンドも『コンラッド』との繋がりが取りざたされてから今まで以上に盛況になった。


「これで、記者のほうは落ち着きますね。」

未緒は事務所に送られてきたたくさんの申請書類を見てため息をついた。

「こちらは、とんでもないことになってますけど...。」

「はは。なるべく早くスタッフを増やすよ。」

のほほんと答えるジェフに未緒は本気なのかしら?と怪しんだがお願いするだけに留めた。

「えぇ、お願いします。」



ミランダが突然、歓喜の声をあげた。

「ジェフ!!やったわ。これでMICの株を51%押さえたわ!」


『本郷』のスキャンダルの出所はスレイドだった。例の男のいう『ご令嬢』の正体がスレイドだったのだ。本人から直接聞いたわけではないから、その真意はわからないがジェフが離婚すれば遺産がもらえると淡い期待を抱いたのだろう。ジェフとミランダが喜ぶのをよそに未緒は胸に重いものを感じていた。ウィルがコンラッドの関連会社に買わせた株が38%、ジェフの持ち株が7%、マデリンの持ち株が2%、ミランダが買った株が4%、合わせて51%、これでMICの経営権はジェフ側のものになった。ジェフが喜びいさんでウィルに連絡をいれ、近く、緊急役員会が召集されることになった。



「ジェフ、お話があるんですけど...。」

いつも通り、夕食を終えてリビングでコーヒーを飲んでいると未緒が口を開いた。

「珍しいね。改まって何?」

ジェフはコーヒーをすすりながら未緒を見た。

「あの...。MICですけど、どうなるんです?」

「どうって?」

「その...。会社は解体されるんでしょうか?」

「う~ん。経営はウィルの専門だから彼にまかせるけど、採算の取れないところは閉鎖かもしれないな。」

「そうすると、社員の解雇は免れませんよね?」

未緒の言わんとするところを察したジェフは口元を緩めた。

「解雇は反対?」

「だって、社員は悪くないでしょう?」

「君が弁護士になりたい理由を忘れてたよ。」

「弱い立場の者が泣き寝入りするのは嫌なんです。」

未緒はジェフをキッと睨みつけた。

「わかった。なるべく解雇しないようにウィルに言ってみよう。ただし、経営陣はだめだ。僕たちが介入しなくても遅かれ早かれMICは終わってた。」

「それは仕方ありません。経営の責任を誰かがとるべきです。」

ジェフは皮肉な笑みを浮かべて続ける。

「経営とは別にスレイドは許せない。君に非がないことで君を追い詰めて傷つけた。ウィルもジェーンを傷つけられて怒りが頂点に達しているから同じ思いだろう。まぁ、結果的にウィルは疑惑が晴れて良かったのかもしれないが...。」


自分の生い立ちを使ってジェフを貶めようとしたスレイドは未緒だって許せない。だが未緒は人の良さそうなアビゲイルの顔を思い浮かべた。夫に付き従う古き良き時代の妻...。

「アビゲイルは...?彼女はどうなるんです?」

ジェフは苦痛に顔をゆがめた。ジェフにだってわかっている、アビゲイルに罪はない。どんなことになっても離婚はしないだろう。

「...わかったよ。それなりに暮らせるようにはしよう。」

未緒は少し怖くなった。ジェフはどこまでスレイドを追い詰める気だったのだろう。

「それなりとは?」

ジェフは目を回したフリをして言った。

「今の家で暮らせる。月に1回くらいはパーティーに行ける。年に1回くらいは海外旅行ができる。孫に誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを買ってやれる。そんな感じでどうだい?ただ、それも全て未緒、君にスレイドが謝罪することが条件だ。本当は謝罪だけでは気が済まないんだが...。君が許すというなら仕方ない。」

ジェフは本当は徹底的にスレイドを痛めつけたかった。未緒を傷つけたことはもちろん許せなかったし、何より未緒が自分の傍からいなくなってしまっていたかもしれないと思うと恐ろしかった。ジェフのほの暗い瞳の色に気づいたのか未緒が口を開く。

「大丈夫、私は傷ついてなんかいません。あなたが庇ってくれて嬉しかった...。独りじゃないって思えたんです。」

ジェフは答える代わりに未緒の肩を抱き寄せ優しいキスをした。