恐れていたことが起こってしまった。こんな風に自分のことが知れ渡ってしまうなんて...。こんなことになる前に、ジェフの前からいなくなっていればよかった。私がズルズルと『その時』を引き延ばしてしまったから...。ジェフの足を引っ張ることはしたくなかったのに...。せめて「知らなかった、騙された」とジェフが言ってくれれば良かったのに...。いつも惚気る時の演技力をここで発揮してくれれば、まだどうにかなったかも知れないが今となってはもう遅い。普段、あまり表情をかえない未緒が蒼褪めていった。


「あなたの『総裁』としての立場も悪くなると思いますが?」

「さっきも言ったが、総裁としての仕事なんてないのだから、なんら問題はない。それに親の犯罪で断罪されるなら、僕も同じだ。」

ジェフは憤慨していた。なぜ、親の犯罪を未緒が追及されなければならないのか。未緒が『トンプソン』の妻にふさわしくないというなら、僕こそ『トンプソン』の後継者にはふさわしくない。

「?」

記者も周囲の人垣もなんのことだか分からずに、静まり返る。

「僕の父親も人殺しだよ。」

記者は、突然出てきたとんでもないスクープに固唾をのんだ。

「それは、本当ですか?」

「あぁ、本当だ。こんなことで嘘をつくとでも?」

「あなたは養子だ。それはみんなが知っている。だが、今まであなたの実の両親は若くして事故で亡くなった遠縁の夫婦だといわれていた。違うんですね。今、あなたの父はどこに?」

「事件のあと、すぐに車で事故を起こして亡くなったと聞いている。」

「母は?母親は誰なんです?!」

「...。」

父の件は自分から話したが、母のことは話すわけにはいかずジェフは黙ることしかできない。

「誰なんです?言えないような人なんですか?」

「...。」


「ウィル、ごめんなさい...。」

ジェーンはウィルに小さな声で謝ると人垣を割って前に進み出た。前に出てきたジェーンをジェフは驚いて見る。

「彼の母は私です。彼は何も悪くないわ。」

大きな声ではなかったが決意を込めた声はその場に凛と響いた。突然現れたジェーン~コンラッドのCEOの妻~に一同は驚きを隠せない。ジェフだけが悲痛な面持ちでジェーンを見ていた。未緒もあまりに予想外な出来事に声を発することができず、ただそばにいると知らせるためにジェフの手を握った。ジェフが未緒の手を握り返してくれたのでほんの少しだけほっとする。

「親の犯罪は子に関係ないでしょう?彼を責めるなら私を責めてちょうだい。」

記者はジェーンに向きをかえ興奮して質問を続けた。

「あなたがジェフリー・B・トンプソンの母親ですって?!それだとあなたが18歳くらいで生んだということですか?」

「16歳よ。」

「ミスタートンプソンは、父親は人殺しだと言っていますがそうなんですか?」

ジェーンは沈痛な面持ちで声を振り絞って答える。

「...あれは...。結果だけ言えば確かに人の命がなくなったわ。でも、殺人ではない。事故なのよ。」

「それは、どういう意味です?」

「...あれは...。」


ジェーンが話しかけ始めたところで、ウィルがSPと割って入り、ジェーン、ジェフ、未緒を会場から連れ出した。会場は振って湧いたスキャンダルに異様な興奮に包まれていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



4人を乗せた車はコンラッド邸に向かった。車内では重い沈黙が流れていた。誰も口を開く者はいない。車が玄関につくとウィルは電話をいくつかかけてくると言って書斎へ向かった。残された3人はとりあえず居間へ足を向けた。出迎えた家政婦にお茶は自分たちで用意するからと人払いをしたが居間につくと3人はそれぞれに椅子に座り、やはり誰も口を開かなかった。


しばらくしてウィルがやってくると、さらに空気がはりつめる。ジェーンは下を向いたままだし、ジェフは窓の外を見つめている。未緒はどうしてよいかわからず、ウィルを見上げた。ウィルは分かっているとでも言いたげな目で未緒を見て頷くと口を開いた。


「さて。ブルーム、何か飲むかい?ウィスキー、ブランデー、ワイン?」

ジェフがバーボンと答えるとウィルは2つのグラスにバーボンを注いだ。

「ジェーンは?」

ジェーンは黙って首を左右に振った。

「未緒?」

未緒も首を左右に振った。

「では、レディたちにはお茶を。」

ジェフにグラスをジェーン、未緒にお茶を出すとウィルは自分のグラスを持ってジェーンの横に座った。


「未緒?さっきの話を知っていたかい?」

ウィルが聞くと未緒は首を振った。

「やっぱり...。僕も知らなかった。我々には知る権利があると思う。話してくれるかい?」

ウィルの質問に先に答えたのはジェフだった。


「よくある話です。世間知らずの娘がどこかのチンピラに騙されて、気づいたら妊娠していた。世間体が悪いから養子として祖父がひきとった。それだけのことです。」

ジェーンは下を向いていたが、ジェフの言葉に顔をあげて口を開いた。

「ブルーム、あなたはそんな風に思っていたの?!違う、違うの!確かに私は世間知らずの娘だったけど、あの時の私なりに真剣にライアンを愛していたわ。それに彼はチンピラなんかじゃない!!いくらあなたでもそんな風に彼のことをいうなんて許さない。」

気色ばんでジェーンが言うとジェフも声を荒げて言った。


「でも、僕の父が人殺しなのは事実でしょう?あなたが僕を捨てたのも!」


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あっ、92話の途中からインタビュアーが記者に変わってる...。

まぁ、同じ人だと思って読んでください (゚_゚i)