授賞式でマッドは素晴らしいスピーチをしてジェフと未緒は誇らしさでいっぱいになった。ジェフも基金の代表としていくつかのインタビューを受けていた。ウィルとジェーンも来ているはずだが、会場は人でごった返しており、どこにいるのかわからない。未緒は会場を見渡して感嘆の声をあげる。
「なんだか、すごいですね。人の多さもそうですが、殺気立ってるというか...。」
「みんな、とりあえず笑ってるけど、新しいビジネスにどうやって食い込もうか虎視眈眈と狙ってるからね。」
その虎たちに狙われているマッドを見てジェフはつい笑みがこぼれる。
「ある意味、ここが正念場だよ。ここで人脈が築ければこの先はもっと楽になる。」
パーティーが一段落してジェフと未緒が帰ろうとしたところで二人は記者に掴まった。始めは、マッドの受賞に関するインタビューだと思ったのだが、先ほどのインタビュアーとは雰囲気が違う。
「ミスタートンプソン。このたび、お義父様の遺産を正式に引き継がれたそうですがご心境は?」
ジェフが養子であることは周知の事実だが例の遺言に関しては親族しかしらないことだ。ジェフは訝しがりつつもとりあえず無難に答えることにした。
「そうですね。QVCは、それぞれの会社が独立してしまいもはやコングロマリッドどころかグループ企業ともいいがたい状態ですが、グループとしてできることは引き継いでいくつもりですよ。ですので、トンプソンファンドや今回その中で新しく立ち上げたプロジェクトの第1号であるマッドの受賞は喜ばしく思っています。」
「なるほど。あなたはQVCの主だった会社の株をかなりお持ちだそうですが、経営にかかわる気はないのですか?」
「その点については今まで通りです。僕は経営については素人ですから。」
「では、『トンプソン』の総裁としては基金の活動のみと?」
「そうですね。あとは、いくつか文化財に指定されている建築物とか美術品とかが残されていますのでそのあたりの管理ぐらいでしょうか。先ほど言ったようにQVCはそれぞれ独立してしまっていますから『総裁』なんてあまり意味はないでしょう?」
そこで突然記者は話題をかえた。
「ところで、ご結婚されたんですね?」
「えぇ。それが?」
「日本の方だそうで...。そちらの方がそうですよね。なんでも元アシスタントだとか?」
なんとなく棘のある言い方にジェフは眉をよせた。なぜ、そんなことを知っているのか不審に思うが記者の意図がわからない以上なるべく穏便にやりすごすことにした。
「えぇ。僕の妻の未緒です。おっしゃる通り、日本人で元アシスタントでした。」
「電撃結婚だそうで。」
「君はゴシップ誌の記者かい?ここは経済誌の記者しか入れないのだと思ったけれど?」
「いいじゃないですか。トンプソンの若き総裁の妻が気になるのは経済誌でも同じですよ。」
ジェフは不快な気分と、今後の基金の活動を未緒も行うことを秤にかけて未緒の顔を売るのもいいかと思い不快な気分を我慢することにした。
「あぁ。運命の人だとすぐにわかったからね。」
未緒は黙ってジェフの横で聞いていたが、ジェフの惚気かたはいつもながら気恥ずかしくて仕方ない。おまけに未緒の頭にキスまでした。未緒が軽く身を引くとジェフが笑って記者に言う。
「ヤマトナデシコって言葉を知ってるかい?まさに未緒はその通りだよ。奥ゆかしいんだ。」
「えぇ。知っていますよ。やはり深窓のご令嬢は違いますよね。なんでも奥様は伯爵の血を引く方とか...。」
未緒は記者の言葉に固まった。なぜ、そこまで知っているのか...。話の雲行きは怪しくなってきたが記者は話をやめない。
「家系を遡ると、『トンプソン』よりも古くまで遡れるそうですね。しかし残念だ。あなたのお父様の代で『本郷』は終わってしまった。まさかそんな由緒正しい血筋の方が弟殺しとは。いや、由緒正しいからこそかな。跡目争いは古代から血生臭くなるものだ。ミセストンプソン、そのあたりはどうお思いなんですか?」
未緒とジェフが口を開けないうちに記者は続けて質問をする。いや、質問というより次々と暴露していった。
「今ではもう『本郷』の名はどうにもならないが、それに負けず劣らずの名家に嫁ぐとは流石ですね。何かコツでもあるんですかね。あれは教えていただけませんか。そのあたりは読者の気になるところだと思いますが?」
先ほどからの険悪な空気に何事かと人垣ができていた。『伯爵』という言葉に周囲はトンプソンの妻だけあると感心していたが『弟殺し』の言葉に今度はざわめきたった。未緒が口をきけないでいるとジェフが未緒を背後にかばって声を荒げる。
「何が言いたいんだ?」
「事実を述べただけですよ。ミスタートンプソン、あなたは知っていてご結婚されたのですか?奥様の経歴は『トンプソン』」にふさわしいと思われますか?」
「妻には何の罪もない。それに彼女は『トンプソン』の名と結婚したのではない。僕と結婚したんだ!僕は未緒を誇りに思っている。逆境に負けずに前向きに生きてきた彼女を!」