男が立ち去るとジェフは有無を言わさず未緒の手をとり歩き出した。未緒は引きずられるようにしてついていくしかできない。ジェフは全身から怒りを発していて話しかけるタイミングが掴めない。

ジェフは先ほどのホテルにつくとすぐにフロントでチェックアウトをした。精算する間も未緒の手は離さない。部屋には戻らず、駐車場へ向かう。

「どこへ?」

「家に帰る。」

「嫌です。」

「君の意見は聞かない。帰るんだ。」

「私が帰ったら、あの男にお金を払いませんか?」

「...考えてみよう。ただし、君がもう家をでないという条件付きでだ。」

今の間はなんだろう、ジェフの言うことも嘘くさい。ジェフらしくないが、このままではあの男のいうとおりに本当に払ってしまうかもしれない。とりあえず、ここは一緒に行くしかないと思い未緒は返事をした。

「...わかりました。では私の荷物をとりに行きたいんですけど。」


未緒が説明したモーテルにつくとジェフは苦い思いで建物を見た。それは標準的なモーテルだったが、ホテルに比べれば安全ではない。未緒が無事だったことに安堵したものの、警戒心の薄いことに怒りを覚えた。

「部屋はどこ?」

「2階です。荷物は自分でとってきますから大丈夫です。」

「僕が一人で行かせるとでも?」

「車からここまでは全て見えるんですよ?私が逃げるとでも?」

「『逃げる』という点では今の君を信用できない。僕は2度も逃げられたからね。3度目はないよ。僕も行く。」

「逃げないって約束したのに...。」

ジェフは運転席からおりると助手席にまわり未緒の手を引いた。未緒は仕方なく一緒に部屋に行く。ジェフは未緒から鍵を受け取って中に誰もいないことを確かめると先に未緒を部屋にいれドアを塞いだ。未緒はクローゼットにかけた服と洗面所に置いておいたポーチを鞄にいれジェフのほうを振り向いた。


「本当にお金のこと考え直してくださいね。あの男は何度でもせびってきますよ?」

「分かってる。」

「だったら別れてください。それが一番いいと思います。婚姻期間が予定より短いですが遺言の執行に問題はないでしょう?」

「別れたとして、奴がマスコミに売らない保証はない。」

「それはそうですけど...。その時は私に騙されたとでも言ってくださればいいんです。人殺しの娘ですもの、信じてくれます。さっきの冷静なあなたの態度からすると知っていたのでしょう?」

ジェフは目だけで知っていたと答えた。

「僕に可哀そうな夫を演じろと?」

「実際、そうなんですからいいじゃないですか。上手くいけばマスコミも同情してくれるかも知れません。家名に傷がついてしまうのと、せっかくのプロジェクトに水をさすことになって申し訳ないですけど私がいなければすぐに修正できます。」

「それで疑問が一つ解けたよ。」

「なんのことです?」

「未緒、君が出て行った理由さ。プロジェクトを守るためだったんだね。」

急に優しい瞳になったジェフの視線に耐えられず未緒は顔を背けた。きまりの悪い思いをぬぐおうと未緒は話をかえた。

「一つということはまだ他にも納得できないことがあるんですか?」

「あぁ。なぜ、あの晩君は僕の部屋にきたのかと思って...。」

未緒は俯いてしまったが、あり得ないくらい耳が赤い。ジェフは未緒に近づいて顎に指をかけると顔をあげさせ目を合わさせた。ジェフは今までと打って変わって甘い声と瞳で未緒に聞く。

「ねぇ、未緒...なぜ?僕はあの時、僕の思いが通じたんだと思っていたんだけど...。僕の自惚れだった?」

未緒はジェフから視線も外すことができず、かといって声も出ない。

「未緒...。」

ジェフは少しずつ間合いをつめていき、未緒を後ろへと追いやる。未緒の足がベッドのふちにつくとそのまま二人は倒れこんだ。