ジェフは未緒と朝食を一緒に食べようとダイニングで待っていた。しかし、いつまでたっても未緒は降りてこない。見かねたアガサが未緒を呼びにいってひとりで戻ってきた。
「奥様は朝食は召し上がらないそうです。」
「やっぱりどこか具合が悪いんじゃ...。」
「えぇ、頭痛がするそうです。後で、軽くつまめるものとお薬をお持ちしますから、坊ちゃまはお食事を召し上がってください。」
アガサの目には相変わらず、僕への非難が込められている。
畜生!僕にどうしろっていうんだ?!
頭痛なんて、夫に会いたくない妻の口実そのものじゃないか!?ジェフは不機嫌なまま朝食を口にして家を出た。
「で、奥さんには何も説明できずに来ちゃったの?」
ミランダは呆れてものが言えないという風にジェフを見た。
「だって、仕方ないだろう?アッチが僕を避けてるんだ。それに僕は何もやましいことはしていない。」
「子どもじゃないんだから...。もとはと言えば、あなたが隠し事をするからでしょう?もう、『馬鹿』もそこまでいくと『哀れ』ね。」
「なんだって?」
「そうでしょう?仮にもあなたの妻なのよ?隠し事をされて気分がいいわけないでしょう。」
「1年間だけの妻だ。それに隠してない。言わなかっただけだ。」
ジェフはぶっきらぼうに訂正した。
「またそんな詭弁を...。なら、聞くけど...。奥さんがジェフの知らない男と腕を組んで楽しそうに歩いてたらどう思う?」
「...そんなことあるわけない。」
もし仮にそんなことがあったら、間違いなく僕は相手の男を殴り倒しているだろう。だって、未緒は僕の妻だ。そして、未緒は相手を殴り倒すかわりに夫の僕を避けることにしたようだ。
「あら、どうして?1年間だけの契約結婚でしょう。お互いに恋人がいてもいいじゃない。」
「結婚してる間は、お互いだけだ。例え、期限付きでも僕は誓いを守る。」
「そういう約束なの?」
「...いや。そんな約束はしていない。でも、普通はそうだろう?」
ミランダはため息をつく。
「普通は結婚に1年間なんて期限はないのよ?あるのは『死が二人を分かつまで』というものだけ。それに、今までのジェフを知っているなら、女性の影がないほうがおかしいと思うわ。」
「なんだ、それ。」
「だって、そうでしょう?いっぺんに何人のガールフレンドがいた?」
「付き合っているときは、ちゃんと一人だけだ。そんな不誠実なことをした覚えはない。」
「えぇ、そうよね。食事だけのデートを『お付き合い』とはいわないのよね。あなたはちゃんとした『お付き合い』をしたとしてもたった数日で『別れる』なんていうのもザラだったでしょう?」
「なんで、そんなこと知ってるんだ?!」
「わかるのよ。ずっと一緒にいるから。奥さんもきっと知ってるわ。あなたのアシスタントだったんだから。」
ジェフはもう黙り込むしかなかった。ミランダに自分の女性関係を知られていたとは思わなかった。
未緒は?聡い彼女なら気づいているはずだ。アシスタントに隠す必要はなかったのだから。それどころか、最初のうちは未緒に彼女たちの電話を受けさせていた...。そんな未緒に僕とミランダの仲を誤解するなというほうが無理なのかもしれない。
ミランダはPCを閉じると、出かける支度を始めた。
「どこへいくんだ?」
「こんな分からず屋とは一緒にいたくないわ。」
「まだ、市場は開いたばっかりだぞ?」
「別に私が参加しなくても地球はまわるのよ?」
「...。」
「でかけてくるわ。私のことは気にしないで。」
「あぁ。わかった、スキにしろ!」
「えぇ。スキにさせてもらうわ。」
ジェフが自分のPCに集中しているフリをしている間にミランダは出て行った。