未緒はジェフに何も聞けないまま数日を過ごした。

あの電話の女性は誰なのか、仕事を辞めたはずなのに毎日どこへ出かけているのか。のど元まででかかるのだが、最後のところで声にならない。偽物の妻が聞くことではないと思ってしまうからだ。


「奥様、申し訳ありませんがサイラスと町までお出かけくださいませんか?」

アガサはチラリとさっきからちっとも進んでいないデスクの上の本を見たがすぐに未緒に視線を戻した。

「町まで?」

「えぇ。奥様にお使いをさせるようで申し訳ございませんが、サイラスが庭の新しい花を選んでほしいそうです。」

「私に?」

「奥様が『生け花』に使われる花を増やしたいそうです。何かの雑誌で『生け花』が特集されているのを見て薔薇ばかりではなく、他も試してみたくなったようです。」

「でも...。」

未緒はデスクに広げられたままの本を見る。

「たまには気分転換をされてはいかがです?」

それ以上は反論を許さないというアガサの口調に、何でもお見通しなのだと苦笑が漏れた。どうせ、ここ何日か勉強が手につかないのだ。アガサの言うように町に出てみるのもいいかもしれない。

「わかったわ。サイラスに付き合えばいいのね。何時ごろ出かけるのかしら?」

アガサはわかればよろしいというように口の端に笑みを浮かべて言った。

「では、ランチのあとに...。」


未緒はランチをとると、サイラスとピックアップトラックで町へ出かけた。町の外れにあるガーデンセンターへ向かう。サイラスは彼なりに気を遣っているのか、どんな花がいいとか、グリーンも必要だとか珍しくおしゃべりだった。未緒もなるべくサイラスの話に集中しようとしたが、少し気を抜くとぼーっとしてしまう始末だった。ガーデンセンターで数種の花とグリーンを選び、トラックに積むと帰路についた。途中、町の食料品店によってアガサに頼まれたものを買って帰ることになっていた。


未緒が買い物を済ませて店から出たところで、ばったりとジェフに会った。腕にはポニーテールの可愛らしい女性がぶら下がっている。


突然のことにお互いに声もなく固まっていると、ポニーテールの女性がジェフを見上げた。

「もしかして...。こちらが奥さん?」

「あっ、あぁ。そう...。」


ジェフが何か言いかけたがそれより少し早くトラックで待っていたサイラスが声をかけた。サイラスからジェフは見えないらしい。

「奥様、どうかなさいましたか?」

未緒はサイラスの声に振り向くと、「すぐ行くわ」と言ってジェフには何も言わずにトラックに駆け寄った。トラックは未緒を乗せるとゆっくりと走りだした。


「ジェフ、今のが奥さんよね。早く帰ったほうがいいんじゃない。あれは誤解したわよ?!」

ミランダに声をかけられ、呆然とトラックを見送っていたジェフは我に返った。

「誤解?何を?」

「だから、私とあなたのこと。」

「僕とミランダ?」

「そう、あの様子じゃ私のこととか他にもいろいろ話してないでしょう?」

「だって、何も聞かれてない。」

「何それ?仕事を辞めたのは知っているのでしょう。毎日夫が出かけて夜遅くまで帰らないなんて普通じゃないわ。」

「気にしてないと思うよ。未緒は勉強できればそれでいいんだ。」

「聞かないから気にしてないと思ったの?そんなわけないでしょう?気になるけど怖くて聞けないってこともあるわよ。」

「なぜ怖い?気になるなら聞けばいいじゃないか。確かに話さなければいけないと思ってなかったけど、隠すつもりもなかったよ。聞かれれば答えた。」


ジェフの答えを聞いてミランダは深くため息をついた。

「ずっと、ジェフは頭がいいんだと思ってたけど、考えを改めるわ。あなたって馬鹿ね。」