ジェフは養父の弁護士事務所に電話をした。今回の分の入金がなかったのは何故なのか尋ねるが、その答えは要領を得ない物だった。遺言の執行について確認しなければいけないことがあったので一時的に入金を停止しただけだというものだった。確認がとれたので今回未納分と一緒に次回に入金できると言われた。


「で、今回の首謀者は誰です?」

「首謀者とはまた、穏やかではありませんね。」

「では、『確認しなければいけないこと』を提案したのはどなたです?スレイドですか?」

「...。」

「OK。わかりました。」

「私は何も言っていませんよ?」

「えぇ。僕が勝手に思ったことです。確かにあなたは何も言っていない。」

「分かっていただければ結構です。」

「本当に次回は大丈夫なんですね?」

「えぇ、もちろん。」

「それでは、これ以上はやめておきましょう。」


ジェフは電話を切るとミランダが視線で大丈夫かと尋ねてきた。

「大丈夫だよ。」

「本当に?スレイドは結構、切羽詰っているかも。MICの株が売りに出されてる。まだ、そんなに目立っていないけどこのままいくとよくないことが起こるかも...。」

「そうか...。」

ミランダのヨミはよく当たる。天才的なトレイダーだ。この若さでこの形だからそう思われないが、今も扱っているのは7桁の取引だ。個人資産も相当なものになる。

「まぁ、ちょっと時代遅れなのよね。経営の仕方も扱っているものも。もう少し前に手を打つべき時があったのに...。今なら、大した痛みも無く引けると思うけど、悪あがきしてるみたいね。傷が大きくなるだけなのに。」

「まぁ、スレイドの会社は、傷が最も浅いうちにどうにかなってほしいけど、僕はどうにもできない。とにかく、次回の分がきちんと入金されれば、文句はないよ。」

「えぇ。でないと、せっかく立ち上げたマッドの会社がパーになっちゃうわ。あれは、絶対にあたると思うの。」

「ミランダのお墨付きがあるんだ。絶対に上手くいくよ。いや、上手くいってくれないと困る。ドリームプロジェクトの第1号なんだから。」

「そうね...。きっと、兄さんが応援してくれているから大丈夫よね。」


ジェフはミランダの兄ロナルドのことを思い出していた。

ロナルドとは、レストランスマイルズでアルバイトをしているときに知り合った。ジェフが出生の秘密を知って腐っていたのを見たスマイリーが『トンプソン』の名に縛られずに過ごしてみないかと声をかけてくれたのだ。もちろん、スマイリーはジェフの腐っていた理由は知らなかったが...。


スマイリーの親戚であることを黙っていたので何もできないジェフはお荷物扱いされた。彼は、食器をまともに持ったことさえないジェフに親切に一から仕事を教えてくれた。陽気で気さくな彼とはすぐに意気投合して、いろいろな話をした。寄宿学校の同級生は、それぞれの家の格式で付き合う友人を決めていたし腹を割って話すということがなかったので、初めてできた親友と呼べる友人だった。そのころのジェフには将来の夢なんてなかった。だが、ロナルドはお前も早くみつかるといいなと言って自分の夢の話をしてくれた。


ロナルドとミランダの母はジャンキーだった。父はどちらもわからない。同じ母から産まれた、それだけが兄妹といえる根拠だった。ご多分に漏れず、家は困窮していた。ロナルドは働きにいける年齢になるといくつものバイトを掛け持ちして生活費を稼いだ。稼ぐ傍から母が使ってしまうが、彼はミランダのために我慢した。福祉局に訴え出ることも考えたがそうするとミランダと離れ離れになってしまうのでやめた。彼の希望はミランダだった。とにかく、学校だけには行かせた。スラム街の学校なんて碌なことはなかったけれど、ミランダにはなるべく職員室に入り浸るように諭して勉強をさせた。ロナルドにはわかっていたのだ。ミランダには数学の才能があることを。だから、この生活から抜け出すためにも大学まで行かせてやりたかった。


そんな時に事件はおこった。母が薬欲しさにミランダを売ろうとしたのだ。ミランダは10歳になったばかりだった。ミランダを渡すまいとしたロナルドは相手の男に刺されてあっけなく命を落としたのだ。アルバイトが終わってジェフと別れた直後のことだった。ジェフは今も後悔している。ロナルドが母の行動が怪しいので早く帰ると言っていたのになぜ、一緒に家まで行かなかったのか...。二人でならどうにかできたのではないかと...。


苦い思い出に浸っていたジェフのデスクにミランダがカップを置いた。いつの間にデスクを離れたのかコーヒーを淹れていたのだ。


「どうぞ。」

「あぁ、ありがとう。そうだな。ロナルドが見守ってくれているよな...。」




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ほとんど説明文ですみません。

それにしても、キョーコと久遠のほうがすすみませんね...。