一刻も早く騒動にケリをつけたいためにジェフはその日、朝早く家を出て町に向かった。
「おはよう、ミランダ。昨夜は眠れた?」
ジェフはドアを開けると既にデスクのPCに向かっていたミランダに声をかけた。
「えぇ、もうグッスリと!」
満面の笑みでミランダが答える。年齢は24だが年より若く見える。ポニーテールとノーメイクのせいだけではない。表情が豊かすぎるのも若く見せる要因かもしれない。
「それはよかった。昨日は大変だったからね。」
「本当に!こんなことはもうなしにしてほしいわ!!」
「さぁ、どうかな?入金がどうしてなかったかは、まだわかっていないからね。」
ジェフの言葉にミランダは思い切り嫌な顔をした。
「誰かに妨害されているの?」
「う~ん。嫌がらせ程度だと思うよ。遺産をもらうための条件はちゃんとクリアしてる。」
「それって、『結婚』でしょ?おととい、電話に出た人が奥さん!?綺麗な英語だったわ。どんな人?」
ミランダは聞くまでは離さないぞという決意をもった目でジェフを見る。こうなったミランダはブルドックのようにしつこい。ジェフは諦めて可能な限りでミランダの質問に答えることにした。
「...何が聞きたい?」
ジェフが抵抗するのを諦めたのを見て、ミランダは嬉嬉として質問を始めた。
「いくつ?」
「24。」
ジェフは改めて、ミランダと未緒を比べてみて、同じ24歳でも大分違うなと思った。ミランダは丸ごと元気。未緒は落ち着いていて清楚で奥ゆかしい...。でもないか、結構頑固だ。
「私と一緒ね?!日本人って言ってたわよね?!美人?」
「何を美人というかは価値観の違いだろう?」
「...。髪の色は?瞳は?肌は?背は?グラマー?」
「髪は艶やかな黒。瞳は黒に近い暖かい茶色。肌はアジア人にしては白くて滑らかだ。黄色というより象牙色だよ。背は僕の肩ぐらい。グラマーではないけど貧祖でもない。脚が綺麗だ。」
ミランダは少し考えるとニヤリと笑う。
「つまり、美人なのね?!」
「だから!そんなこと言ってないだろう?」
「だって、好意的な形容詞がいちいちくっついているんだもの。誰がどう聞いても美人だと思うわよ?!」
「...。」
黙り込むジェフを横目にミランダは質問を続ける。
「で、どんな人?」
「どんなって?」
「ひととなりってやつよ。」
「...。よく気が付くよ。細やかな気遣いもできる。でも、決して押しつけがましくないんだ。おしゃべりではないけれど、聞き上手かな。ユーモアもある。佇まいは清楚で気品にあふれている。頭もいいしね。アシスタントは何人も変わったけれど、あんなに仕事をやりやすかったのは他にいなかったな。」
「ふ~ん。ヤマトナデシコってやつ?」
「そんな言葉を知ってるんだ?そうかもな。」
「欠点はないの?完璧な人って気持ち悪いわ。」
「欠点?頭が良すぎてカチンとくることはあるな。それと頑固だし、自立心がありすぎて甘えるのが下手かな。」
ミランダにニヤニヤと顔を覗き込まれて、ジェフは視線を逸らす。
「ふ~ん。」
「な、なんだよ。」
「ジェフがそんな風に女性のことを話すのを初めて聞いたなと思って。」
「お前が教えろって言うから答えただけだろう?」
「だって、今までは聞く価値もない、胸はあるけど頭はからっぽっていう人しかいなかったんだもの。」
「お前ね...。」
「で、どうやってそのヤマトナデシコを口説いたの?」
「口説くって...。お互いに都合が良かっただけだよ。」
「ジェフの都合は知っているけど、奥さんの都合は知らないわ。そんな素晴らしい人をどうやって巻き込んだのかしらと思って。お金?」
「金って...。人聞きの悪い。」
ジェフは顔を顰める。未緒は必要以上の金も物も受け取らない...。もう少し甘えてもいいのにと思うほどだ。
「じゃあ、体?」
ジェフは驚いて言葉に詰まる。
「ど、どこからそんなはしたない発想が出てくるんだ?!そんな風に育てた覚えはない!」
「そうね、私も育ててもらった覚えはないわ。で?」
ミランダはしつこく食い下がるがジェフもここは譲れない。
「それは秘密だ。彼女の都合をペラペラ人に話すつもりはない!」
「私にも?」
「そう、ミランダお前でもだ。そろそろ、市場が開くんじゃないのか?」
ジェフはPCを指差し、これ以上は絶対に譲らないと目で制した。ミランダも長くジェフとつきあっているから引き際を心得ている。これ以上は怒らせるだけでいいことは一つもない。
「...わかったわよ。そのうち、奥さんに会わせてよね?」
「...。」
「大丈夫よ。頭のからっぽの人の話はしないから。」
「そんなこと、わざわざ言わなくても知ってるよ。」
ジェフはミランダには聞こえない小声でつぶやくと自分のデスクについた。おとといの未入金の件を確認するために...。