なかば強引にコンラッド邸に二人は連れて来られ、もう遅いからとゲストルームに放り込まれた。


「...。」

「...。」


当然のことながらベッドは一つ。それは決して狭くない部屋に存在感を十分に発揮していた。椅子はあるにはあるのだが、一人掛けにしては大きな椅子がカフェテーブルを挟んで二つ。他にはドレッサーの椅子、文机の椅子があるだけだ。つまり、横になれるようなソファーはない。


「仕方ない。僕は床で寝るよ。」

「そういうわけには...。」

未緒の声は段々と小さくなる。だからといって、いい案も浮かばない。まさかあそこまで惚気ておいて部屋をもう一つ用意してほしいなんて言えるわけがない。


「一晩くらいどうってことはないよ。もう遅いし、先にバスを使ったらいいよ。」

「...では、お先に。」

未緒はパジャマを出すとそそくさとバスルームに消えた。二人きりの空間がいたたまれずいつもなら遠慮するのに先にバスルームを使わせてもらったのだ。未緒が出ると入れ替わりにジェフがバスルームへ消えた。


「あの、ベッドはとても大きいですし一緒に寝ませんか?」

「えっ?」

バスルームから出てきたジェフはドレッサーの前で寝支度をしている未緒の言葉に驚いた。

「いえ...。あなたにそういう気がないのはよくわかってますから。それなら、こんな広いベッドですし...。ここにはソファーがありませんし風邪をひいてしまってもいけないですし...。」

「一緒に寝るのは初めてじゃないし?」

「そっ、そんな言い方をしなくても!」

「はは。ごめんごめん。そんなことを言ってもいいの?今度はアレじゃすまないかもしれないよ?」

意地悪く言うジェフに未緒は頬を染める。

「もう、どうしてすぐ私をからかうんですか!私はあなたの好みとは違うでしょう!」

「僕の好みがわかるの?」

「それは...。最初のうち、連絡をしていましたからわかります!」

「連絡?」

「あなたのガールフレンドに...。」

「あぁ...。」

ジェフは以前のガールフレンドたちを思い浮かべたが、どうしてあんな女性たちと付き合っていたのか自分でも良くわからない。いや、正直にいうならば第一条件は結婚を望まない割り切った女性だ。なんとなく自分の浅はかさを突きつけられたみたいで気分が悪い。

「では、お言葉に甘えてベッドを共有させてもらうよ。」

ジェフが先にベッドに入っていくのを見て、未緒は反対側から入った。自分で言っておきながら脈が早くなる。『大丈夫、ジェフは私をどうこうしようなんて思っていない。』未緒は自分に言い聞かせていた。


二人はベッドの中でただ固まっていた。身動き一つできない。緊張感に耐えられず、未緒はかねてから思っていたことを口にした。


「親戚の方は、皆『ブルーム』と呼ぶのに、ジェーンは『ジェフ』と呼ぶのですね?」

突然、振られた話にジェフは面食らってしまう。

「あっ、あぁ。」

「何か理由がありますの?」

「なぜ?」

「だって、義理のお父様も『ジェフリー』なのでしょう?それなら、一緒に育ったジェーンが一番、『ブルーム』と呼ぶのではないかと思ったものですから。」

だから、頭のいい女は嫌いなんだ!ジェフは内心で舌打ちをする。

「一番、近しいからだよ。僕はミドルネームは好きじゃない。それを知ってるからジェフと呼ぶんだ。」

「好きじゃない?それで、オフィスでは誰もあなたのミドルネームを知らなかったんですね。」

未緒はきっと気づいていて、あえて嫌いな理由を聞かないのだろう。こういう気遣いはありがたいと思う。もし、聞かれたらなんて答えればいいのかわからない。

黙り込んだジェフに聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと未緒は思ったが、もう遅い。さらに気まずくなった雰囲気をどうにかしようと未緒は再び口を開いた。

「そういえば、あなたはジェーンと似てますね。やっぱり遠縁か何かですの?」

「えっ?」

「髪の色と瞳の色が良く似ているものですから。」

「そうかい?金髪はそう珍しくないだろう?」

瞳の色は...確かに珍しいかもしれないが、ジェフはあえてそれについては言わなかった。

「まぁ、そうかもしれませんが...。」

未緒はまたしても触れてはいけない話題に触れてしまったと思い、言葉を濁す。

「僕は親を知らない。養父が『トンプソン』を継がせる男の子が欲しくて連れてこられたんだ。」


未緒は不思議に思う。これだけの家柄で全く血縁関係のない子どもを引き取って後継ぎにするだろうか。結婚披露パーティーにはひ孫たちが大勢いたのだ。先代ジェフの子どもはアビゲールとマデリンの女の子しか残っていなくても孫の中には男の子もいたのではないか。何にしてもわからないのは、ジェフがジェーンの話になると不機嫌になることだ。何かあるのだろうが、その何かに未緒は触れてはいけない気がする。1年間だけの妻が安易に首を突っ込んでいい訳がない。