『マデリン』につくとすぐに個室へ通され、スマイリーがやってきた。一緒にいる女性はアビゲールに似ているが、アビゲールよりふっくらとしており人懐こい笑顔で出迎えてくれた。


「はじめまして。あなたがブルームを射止めた未緒ね?私はマデリンよ、よろしく。」

未緒は差し出された手を握り笑顔で答える。プニプニと柔らかく暖かい手だった。

「はじめまして。未緒です。」

挨拶が済むと二人は用事があるので失礼と言って出て行った。


食事とともに例のワインも出された。美味しい食事とワインに二人は会話もはずみ楽しい時を過ごしていた。デザートも終えようというところにノックが響き、ドアが開いた。


「ジェフ?こちらに来ていたのね?」

ジェーンと夫のウィルが顔を出した。途端にジェフの態度が固くなる。

「えぇ。ちょっと用事があったので、ついでに寄ったんです。ウィル、お久しぶりです。」

「久しぶり。こちらが、君の花嫁かい?」

「紹介します。僕の花嫁の未緒です。」

「はじめまして、未緒。ジェーンの夫のウィリアムです。先日は行けなくて申し訳なかったね。」

「いいえ。お忙しいでしょうから...。はじめまして、未緒です。」

「コーヒーをご一緒してもいいかしら?」

ジェーンに問われ、未緒はジェフを一瞥する。するとジェフが「どうぞ」と椅子をさした。


「お二人は、今日はどうしたんです?」

「マデリンに来週の予約の電話をしたらあなた達が来ているというので、会えるかと思って急いで来たの。」

「それは、それは...。ご足労いただいてすみませんでした。」

「いや、私がどうしても花嫁に会ってみたくてね。二人きりで楽しんでいたところ、お邪魔だったかな?」

「いえ、そんなことはありませんわ。お会いできて嬉しいです。」

未緒はジェフのピリピリとした雰囲気をどうにか和らげたいのだが、とっかかりが掴めない。いつもは誰に対しても陽気な人なのに、ジェーンに対してだけはとげとげしい。あまり一緒に過ごしたことはないと言っていたがジェーンの祖父がジェフの養父であるのだからもう少し仲が良くてもよさそうなものなのにと思わずにはいられない。


「で、どこで知り合ったんだい?あぁ、これはさんざん聞かれて答え飽きた質問かな?」

「いえ、いいんですよ。突然、結婚したものだから皆が不思議がるんです。」

ジェフはパーティーで話した内容を繰り返した。

「では、運命の人をみつけたわけだ。よく言うように、電流が流れたみたいに?」

ウィルはスレイドよりも物腰は柔らかいが、それでも何か思うところがあるらしく二人の結婚について聞いてくる。ジェフが上手く答えているが、横で見ているとなぜかハラハラする。ジェフが未緒の内心の不安を感じたのかテーブルの下で未緒の手を握った。

「えぇ。そうです。といっても最初は『彼女は他の女性とはどこか違う』としか思いませんでしたけど。」

ジェフは未緒に意味深な笑みを向けた。そう、彼女はどこか違った。まず僕になびかなかったし、感情がないかのように振る舞っていた。そんな未緒のいろいろな表情が見られることが今はこんなにも嬉しい。

「ほう?それで?」

ジェフはウットリと未緒を見たまま、言葉を続けた。

「何が違うのだろうと思って、ずっと考えていたらいつの間にか恋に落ちてました...。」

「それはそれは...。誰にも本気にならないはずの君が?もしかして初恋じゃないのか?」

ウィルはやや皮肉交じりの声で言ったがその瞳には安堵のようなものが浮かんでいる。ジェフも未緒もお互いをみていたので、ウィルの瞳の奥に浮かんでいた物には気づかなかった。ジェーンだけは夫の態度に気づき、これでウィルのいらぬ誤解がとけると胸をなでおろした。

「...初恋ですか?そうかもしれませんが...。ウィル、あなたがそんなにロマンチストだったなんて知りませんでした。」


未緒はジェフがようやく自分から視線を逸らしてウィルを見てくれてほっとした。つないだ手はそのままだが視線が逸れただけでも緊張は減る。それにしても、ジェフは仕事を間違えたのではないか。今のジェフは誰がどうみても心から妻を愛する夫にみえる。弁護士なんてやめて今からでも俳優になればいいのにと考えていたら、ウィルが未緒に話しかけてきた。

「で、未緒?君もジェフが初恋?」

ウィルが最初、部屋に入ってきたときにまとっていたピリピリとした空気は消えていた。今は、とてもスマートないい人に見える。もちろん大企業のトップらしい威厳も持ち合わせているが、アメリカ人らしい冗談も通じそうだ。

「私ですか?...。」

質問の内容にとまどっているとジェフが握る手に力を込めた。

「えぇ。...いえ。...それはここでお話しするのはやめておきましょう。私の夫は嫉妬深いので。」

未緒は微笑みながらジェフの手を握り返した。

「それもそうだ。自分の妻の過去を知りたい夫などいないからね。無粋な質問をして悪かったね。」

「いいえ、気にしませんわ。」

ジェーンは夫の言葉にドキリとしたが、顔にださないようにして話題を変えた。

「ジェフ、今日はどうするつもりだったの?もう帰れないでしょう。」

「今日はホテルに泊まって、明日帰るつもりでした。」

「そうなの。明日は早いの?」

「いえ、特に用事もありませんから...。」

「それなら家にくればいいじゃないか。部屋はたくさんある。」

ウィルが言うとジェーンも賛成した。