スレイドも引き上げ、残ったのはスマイリーとジェーンだけになった。

ボールルームは慌ただしくケータリング業者が片づけをしているので4人はダイニングルームで軽い昼食をとることになった。


「へぇ、未緒が『イケバナ』をみんなに教えたのかい?」

スマイリーが、アガサの作ったサンドイッチを頬張りながら聞いた。

「えぇ、そうなんですよ。聞けばインストラクターの資格もあるそうで...。」

当の本人ではなく、なぜだかジェフが自慢げに答えた。

「なんだ。それなら、朝寝坊なんかしないで早起きするんだった。」

「どうせ、遅くまでイタリアの業者と商談してたんでしょう?あちらは昼でもこちらは夜なんですよ。」

「仕方ないだろう。いいワインを作るワイナリーがあってなぁ。やっとうちに売ってくれることになったんだ。未緒、イタリアワインは好きかい?今度お礼にごちそうするよ。」

「お礼って?何もしてませんけど...。」

「いや、めでたい祝いの席にいると言ったら、『それならうちのワインだ』って言ってくれてね。だから、この商談は君たちのおかげだよ。」

「まぁ、それではぜひ。」

「あぁ、『マデリン』で待ってるよ。」

「『マデリン』で出すんですか?」

「そうなんだ。あまり本数がないからね。」

「それはそれは...。ぜひ、ごちそうにならないと。」

ジェフとスマイリーだけで話が進み、未緒にはなんのことだかさっぱりわからない。未緒の表情を見てジェフが説明を加えた。

「『マデリン』というのはスマイリーのイタリアンレストランの中で最高級店なんだよ。そこで出すワインとなれば味は保障するよ。」

「まぁ、それではぜひお邪魔しないと...。ふふ。奥様を愛されているんですね?奥様のお名前ですもの。」

「まぁね、僕は最高の伴侶を得たと思っているよ。君たちもね。」

「それはもう!」

ジェフが大げさに同意するのがなんとも白々しく、未緒は引きつった笑みをみせた。スマイリーはそんな未緒に気づくこともなく話題を変えた。


「ジェーンはやけに静かだな。疲れてしまったのかい?」

急に話を振られ、慌てて答えた。

「そんなことは...。あっ、いえ、そうかもしれません。」

「なんだ?一体どっちなんだ?あぁ、ウィルがいなくて寂しいのか?君らもいつも一緒だものな。」

「いつもというほどでもありませんわ。」

「そんなことないだろう。ところで、ウィルはどうして来られなかったんだ?」

「えぇ、どうしても外せない商談があって...。そうね、『マデリン』に行くなら家にも来て?そんなに遠くはないのだから....。」

ジェフはジェーンの顔を訝しげに見た。『家に来て』だって?社交辞令だろう。それにウィルは僕に会いたくないはずだ。彼は僕とジェーンの仲を疑っている。

「本当に?」

ジェフは冷たい声でジェーンに聞いた。

「もちろんよ。未緒をウィルに会わせたいし...。」

それこそ嘘だ。この間、日本人ってだけで嫌ってると言ったではないか。誰がそんなところへ僕の未緒を連れて行くものか...。

「わかったよ。ぜひ、お邪魔させて頂くよ。」

ジェフも表面だけは繕って心とは反対の答えを返した。