ジェフは朝食の時間まで書斎で時間をつぶしたあと、未緒を迎えにいった。仲の良い新婚夫婦が一人で朝食におりていくのは不味いと思ったのだ。部屋に戻ると未緒はすっかり身支度を整えていた。


「今、探しに行こうと思っていたんです。」

「あぁ、悪かったね。少し体を動かそうかと思って...。」

「ふふ。やっぱりソファーで寝て体が痛いのではありません?」

「まぁね。でも、眠れなかったのは君の歯ぎしりのせいだよ?」

「えっ?!歯ぎしりなんてしてました?」

からかう気満々のジェフに未緒はすぐに体制を立て直すと言い返した。

「私が歯ぎしりしていたとしたら、それはあなたのせいです。私にストレスをかけるからです。だいたい、さっきはよく眠れたと言っていたではありませんか?」

「あれ?覚えてたかい?僕は紳士だからね、君に気を使って嘘をついたんだよ。本当は歯ぎしりで眠れなかった。誰かに言われたことない?」

今度は真面目な表情のジェフに本当に自分は歯ぎしりなんてしていたのかと不安になる。だって、寝ている間のことなんかわかるわけがない。誰かに言われたこともあるわけがない。ずっと一人で寝ているのだから...。

何やら真剣に考え込む未緒がおかしくてジェフは笑ってしまう。

「嘘だよ。歯ぎしりなんてしてなかった。どちらかというと息をしているのかと心配になるほど静かに寝てたよ。」

「もう!どうして私をからかうんですか!」

未緒がドアに向かって歩き出したのでジェフも後をついていった。


ボールルームにビュッフェスタイルで朝食が用意された。席は室内と室外両方に用意されたが女性たちは日差しを嫌って室内にいるほうが多かった。昨夜、遅くまで元気だったひ孫たちは、まだ眠っているのか姿をみなかった。ジェフは寝不足の体に朝の日差しはきついと思ったが、室内にうるさ型のオバサマたちが多いのを見て庭に未緒を誘った。二人はそれぞれに食べ物をとると席につく。皿を置きジェフが飲み物をとりにいった隙にスレイドとアビゲールが未緒に近づいてきた。


「おはよう、未緒。よく眠れたかい?」

「おはようございます。えぇ、おかげさまで。お部屋は快適でしたか?」

「あぁ、おかげさまで快適だったよ、ありがとう。ところで、君の親戚は披露宴にこなかったのかい?」

未緒は一瞬、表情を強張らせたがすぐに元に戻した。

「えぇ。残念ながら...。」

ジェフはスレイドが未緒に近づいていくのを見て急いで戻ってくると飲み物をテーブルに置き未緒の肩を抱いた。

「実はまだ僕たちのことを認めてもらっていないんですよ。それもあって結婚式をしていないんです。認めていただいてからにしようと思っているんです。でも、どうしても一緒にいたくて...。だからといって同棲という曖昧なことはしたくありませんでしたから籍だけでもいれることにしたんですよ。落ち着いたら、きちんとご挨拶に伺うつもりです。」

「ブルームを気に入らないだって?それはそれは...。」

スレイドは意味ありげにジェフを見た。

「彼女のご両親にしたら、誰だって気に入りませんよ。大事な娘さんですからね。」

ジェフは未緒の髪にキスをする。未緒はスレイドの質問にハラハラすることしかできなかったが、どうにか笑みをかえした。

「そういえば、あのお花はどちらの業者ですの?すごく素敵で!!教えてくださらない?」

険悪な雰囲気をどうにかしようと果敢にもアビゲールが話題を変えた。

「あれは、この庭の花ですの。」

「そうだったの。いいアイディアですわ。ここのお花はよく手入れされてますもの。でも、やはりアレンジメントのセンスがものをいいますものね...。」

「アビー、あれは未緒が活けたんだよ。」

ジェフが自慢げに言った。

「えっ?!ホールにあったあんな大きなものまで?素晴らしいわ!!今度、我が家のもお願いできる?」

話題を変えられればいいと思っただけだったのに、アビゲールは珍しく本気で話し込んでいた。未緒にパーティーの花を依頼したところで、ハタと我に返る。

「ご、ごめんなさい。業者さんではないのにね。今のは忘れてちょうだい。」

「いえ、気にしていませんわ。お宅にお伺いしてという訳にはいかないと思いますけれど、そんなに難しいものではないんです。コツさえ掴めば誰でもできます。簡単なもので良ければお教えしましょうか?」

「でも...。」

アビゲールはスレイドの顔を窺った。いつもなら、いい顔をしないのに今日は笑っている。

「実は、ゲストルームのバスルームの薔薇も未緒が活けたんですよ。」

ジェフが補足すると未緒も笑顔で勧めた。

「えぇ、そうなんです。あのくらいでしたらすぐにできますわ。」

それでも遠慮するアビゲールにスレイドが後押しする。

「いいじゃないか。彼女がいいと言うなら教わってみれば。多少、出発が遅れても僕は構わないよ。」