パーティーの準備はアガサと協力して行った。

ケータリング業者を選び、長いこと使っていなかったゲストルームを整えた。ダンスのために楽団も頼んだ。当日の会場には庭の花を未緒が生けることになっている。サイラスも喜んで協力すると言ってくれた。


「未緒、すまない。一つ困ったことがあってね。」

「何ですか?」

「実は部屋が一部屋足りないんだ。」

「?」

「で、君と僕が同室になる...。」

「!」

「どちらにしろ、夫婦が別の部屋で寝るのはおかしいだろう?まさか日本の習慣だからなんてごまかせるわけがない。一晩だけ我慢してくれ。僕はソファーで寝るから...。」

「ソファーって...。」

「君の部屋にあるだろう?あれだよ。僕の部屋を人に貸すよ。もともと未緒、君の部屋がメインベッドルームだ。」

「そうだったのですか?!」

未緒とジェフの部屋はコネクティングルームになってはいるが常に鍵がかかっている。未緒はジェフの部屋に入ったことはなかった。まさか、ジェフがメインベッドルームを譲ってくれていたなどとは知りもしなった。

「僕の使ってる部屋は、もともとこの家の初代の妻の部屋なんだよ。だから、君の部屋より少し狭いんだ。何代か前に手を入れてそれぞれにバスルームは増築したけどね。」

「そんな。私がそちらで構いませんでしたのに...。」

「でも、君の部屋からは何も使わないで開けられるけど、僕の部屋のほうからは鍵を使わないと開けられないんだ。そこは不都合がなかったらしく増築した時も変えてないんだよ。鍵は君の部屋のナイトテーブルに入れてあるけど、気づかなかった?それにしても随分、理不尽だよね...。」

それは、つまり、夫が望めばいつでも応じなければいけないけれど、妻からは要求できないということで...。そこに思い至ると未緒は頬をうっすらと赤くする。その様子をジェフはかわいらしくて好ましいと思った。ジェフの周りにこの程度のことで頬を染めるような女性は久しくいなかった。

「で、部屋の件だけど一晩だけだから我慢してくれるかい?」

「...仕方ないですね。私がソファーに寝ます。」

「女性をソファーに寝かせるなんてできないよ。」

「いいえ。性別ではなく体格の問題です。あなたの体ではソファーには納まりません。」

「...。わかった。この件は後でまた話そう。」

一歩も引く気のない未緒にジェフは、とりあえず話を保留にしておいて当日は実力行使にでればいいと考えていた。先にソファーに横になってしまえば未緒に自分を動かすことは不可能なのだし、逆に先に未緒がソファーを使ってしまったら寝入ってからベッドに移せばいいだけのことだ。

話をうやむやにされ、いつもきっちりと物事をきめるジェフらしくないと思ったが今はしなければならないことがたくさんある。未緒はパーティーの段取りをジェフと決めていった。



パーティー当日は雲一つない快晴だった。これが本当の結婚披露パーティーだったら申し分ない一日になっただろう。でも、自分たちの結婚は期限付きのまがいものだ。とにかく、今日一日をどうにか乗り切らなければならない。そうでなければ結婚した意味が無くなってしまう。未緒はスタッフやアガサに最終確認をしながら気を引き締めていった。

玄関ホールとボールルームにはグリーンを基調に白い花をアクセントにして人の背丈ほどの高さのある大ぶりのものを生けた。各ゲストルームにはサイラス自慢の薔薇を生ける。会場となるボールルームの一角にカナッペなどのつまみと軽食のテーブルとドリンクコーナーを設け、壁沿いに椅子を数客用意した。天気が良かったためボールルーム前の庭に出る窓を開け放つ。こちらにもテーブルといすをいくつか用意し寛げるようにし、喫煙コーナーも作った。


「奥様、そろそろお客様が到着されます。お支度をなさってくださいませ。」

未緒が時計を見ると、既に19時をまわっていた。パーティーは20時から始まる予定だ。もしかしたら早めに到着する客もいるかもしれない。会場の準備はほとんど整っている。あとはアガサが仕切ってくれるだろうし、早くついた客はジェフが相手をするだろう。今日の主役の自分がラフな格好のままではまずい。未緒はアガサに後をお願いすると自室に下がった。ジェフの当座の荷物が目につき、未緒は複雑な気分になったが、時間がなかったので支度を始めた。


コンコン


「どうぞ。」

未緒の支度が一通り終わったころ、ジェフがやってきた。

「今日もキモノかい?」

「えぇ、これだと、踊らなくていいですから。」

「...なるほど。前と違って袖が短いんだね?」

「あの袖の長いのは『振袖』といって未婚の女性のものなんです。一応、結婚しましたので...。」

髪はいつも通りシニヨンに結っている。仕事でのパーティーの時のようにいつもより赤めの口紅をつけていた。眼鏡も外している。

「キレイだよ。とてもよく似合っている。そうだ、奥様、お手を。」

ジェフが未緒の左手をとって既に結婚指輪のはまっている薬指に見事なサファイアのリングをはめた。大きなスクエアカットのサファイアの周囲をダイヤが取り囲んでいる。

「これは?」

「婚約指輪だよ。結婚指輪よりあとになってしまったけどね。」

「随分、年代物のようですけれど...。」

「代々、トンプソンの当主の妻のものなんだよ。つまり、君だね。」

「そうですか。では、つけないわけにはいきませんね。お借りします。」

未緒が仕方なくつけると言ったのがジェフは気に入らず、やや尖った声で言った。

「妻の間はつけておいてくれ。では行こうか?」

未緒に差し出したジェフの手には結婚指輪が光っていた。事務所には結婚したことを伝えていなかったので指輪はしていなかった。事務所をやめてからもしているところは見たことがなかったが、今日のパーティーのためにしたのだろう。判事の事務所で指輪の交換をしたときには思わなかったのに未緒は急に結婚したことが現実に思えてきた。





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フォーマルな席での着物の色や柄等がわかりません。

イメージは皇室の方の晩さん会とかなんですが...。

すみません。それぞれで想像してください (゚_゚i)