「じゃあ、そんなとこでお願いするよ。」
マルコは打ち合わせが上手くいき上機嫌で答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
キョーコと社は共に丁寧にお辞儀をしてマルコのオフィスをあとにする。
既にオフィスには迎えの車が来ており二人はその車で久遠との待ち合わせ場所に向かった。
ついた先はコンチネンタルレストランで、とてもスタイリッシュな雰囲気の店だった。入り口でドアマンに名前を告げると奥の個室に案内された。既に久遠はついているらしい。
個室のドアを開けた途端に、いきなり抱きつかれキョーコは面食らってしまった。久遠はあきれながら「ごめんね」と言ってジュリを引きはがした。
「久遠!なんで挨拶しちゃダメなのよ?!いいじゃないこれくらい。久しぶりなんだから!!!」
「もうすぐ、パーティーのシーンで会えるでしょう?それにこれは挨拶じゃありませんよ。捕獲です。」
「まぁ、失礼な!...捕獲ね。あら、それもいいわね。今日は一緒にアパートに帰りましょう?女の子同士でパジャマパーティーよっ!」
「何、言ってるんですか。明日というか今日の夜中には飛行機に乗らなきゃ間に合わないのでしょう?それなのに、キョーコちゃんが来てるからって無理やりついてきたくせに...。」
「だって、共演しているといっても私の出番は電話ばっかりで、全然キョーコに会っていないのよ?!そうよ!ヤシロサン、あなた日本から帰ったらキョーコと過ごす時間をくれるって言ってたじゃない。それなのに、キョーコの休みがあってこっちに来てるのに私に連絡もよこさないなんてヒドすぎるわ。アルマンディで久遠に会わなければここでこうしてキョーコには会えなかったのよ...。こんなことでは私の寿命は...。」
親子コント(?)が繰り広げられていたのを呆気にとられて見ていた社だが急に自分にお鉢が回ってきて慌ててしまう。
「それは...。撮影は休みですが他の仕事の打ち合わせで...。まさかこちらにいらしているとは...。」
「はいはい。この話はもうこのくらいで。社さん、気にしなくて大丈夫ですよ。今日、キョーコちゃんに会えたことで寿命は延びたはずですから。そろそろ席につきませんか。お店の人も困っていますよ。」
久遠の言葉に出入り口のドアを見るとウェイターがいつ入ったものかと躊躇している。その様子をみて漸く席に着いた。
「あら、キョーコがデザインしてマルコが気に入ったのってそれなの?」
食事をしながらマルコのブランドのデザインを引き受ける話を聞いていたジュリがキョーコの胸元に目をとめた。ジュリはちゃっかりキョーコの隣を陣取っている。
「はい。そうなんです。」
キョーコの胸元にあるコーンをよく見ようとジュリが手を伸ばした。
「ホント、かわいらしいけど気品もあっていいわね。でも、これがプリンセスローザなの?青い薔薇ってこと?」
「いえ、プリンセスローザは違うんです。あれはピンク色で...。覚えてらっしゃいませんか?前にご自宅にお邪魔した時につけていたやつです。これはコーンといいます。」
「そういえば、これと同じデザインのをしていたわね。あれがプリンセスローザなの。で、これはコーン?青いトウモロコシ?」
ゴホンっと咳ばらいをした久遠が「料理が冷めちゃうよ」と話題を変えようとするがジュリは引き下がらない。
「青い石って...。」
ジュリは何か思い当たるのか久遠を横目で見るが当の久遠はジュリの視線には気づかないふりをしている。
「コーンは子どものころから大切にしているお守りなんです。悲しい気持ちを吸いとってくれるんですよ。」
瞳をきらめかせて話すキョーコを見ながらジュリはいつか久遠を問いたださないとと思いながら話をすすめた。
「ピンクの石がプリンセスなら、この青い石はさしずめプリンスってとこかしら?お姫様を守る王子様。」
ジュリの発言にキョーコは一層、瞳をきらめかせる。
「プリンセスを守る王子様...。プリンスコーンですね!!」
コーンが久遠の意味であることを知らない社は思わず、トウモロコシの王子様を想像してしまいそれはあまり強そうじゃないなと内心思っていたがキョーコやジュリが嬉しそうに話しているので水を差すのはやめた。ふと久遠を見ると口元を手で押さえ、何となく耳が赤くなっている気がする。社が訝しげに自分を見ていることに気付いた久遠はまた咳払いをすると素知らぬ顔で料理を口へ運んで行った。
「私もマルコにオーダーしようかしら?どうせならキョーコとお揃いのプリンセスローザがいいわ。」
「あっ、あのう。すみません。プリンセスローザはダメなんです。」
「あら、なぜなの?」
「その...。デザイナー特権で...。」
「特権?」
シドロモドロのキョーコに代わって社が答えた。
「プリンセスローザはキョーコちゃんにとって思い入れの深いものでと話したら、それだけはオーダーに応じないって約束をしてくれたんです。オーダーすればどんな石でも同じデザインで作ってくれますがプリンセスローザだけはキョーコちゃんのものなんです。」
社の言葉に続いてキョーコも照れながら答えた。
「そうなんです。プリンセスローザは誰とも共有したくなくて...。私だけのものにしておきたいんです。」
「まぁ、そうなの!それなら残念だけど諦めるわ。クーにプレゼントされたもので作ってもらおうかしら?私だけの思い出の品で...。」
ジュリに諦めてもらえたキョーコは安堵した。ジュリのことは大好きだが、プリンセスローザは自分だけのものにしておきたい。
突然、久遠が席をたった。「失礼」といって退室する。その姿に社は思わず笑みがこぼれた。絶対に今度こそ間違いなく真っ赤になってた。キョーコちゃんの『私だけのもの』に反応したんだろう。それともそのときの照れて上気したキョーコちゃんか...。どちらにしても相当嬉しかったのだろう。ほんと幸せレベルが低い奴だと思いながら社も嬉しくなってグラスに口をつけた。