車は田舎町を抜けるとまばらに家の建つ一本道を進んでいった。

まばらな家もなくなった頃に並木道が続き、突然、開けた場所に出た。

そこには、大きな円形の花壇があり、ぐるりと回ると車寄せのある大きな家があった。田舎家風だが、その大きさは田舎家にしては並外れて大きく、古い建物だったが手入れはされていた。


「着いたよ。降りて。」

「ここは?」

未緒は車を降り、荷物を下ろそうとしたがジェフがさえぎって大きな箱を持ち、さらにその上に幾分小さい箱をのせて玄関へ向かった。未緒は小さな箱を二つ重ねて持ってその後に続く。

「遺産の一つだよ。」

「一つ...ですか?」

「そう、あとはさっき通った町にもあるけどあっちは他人に貸してるから使えないんだ。町からちょっとあるけど車ですぐだし...。君、運転は?」

「一応、免許は持ってますけど。ほとんど乗ったことはありません。」

「そうか...。ガレージの車は好きに使ってもらって構わないけど、少し練習が必要かな?」

玄関の鍵を開けながらジェフは未緒を見た。

「車、必要ですか?」

「通いの家政婦がいるから食事とかの家事は一切やってくれるけど、1年間家から出ないつもりかい?この辺は車がないとどこにも行けないよ?」

「それでしたら出かける用事は特にありませんし、せっかく時間がありますから勉強して過ごそうかと...。」

「本当に?1年間も?」

「えぇ。」

何かおかしなことでも言いましたか?と言いたげに未緒はジェフを見かえした。

「とりあえず、気がかわったら車は好きに使っていいよ。出かけるのにどうしても運転したくなかったら庭師に言ってくれ。車を出すように言っておくから。」

「わかりました。出かけるときはそうさせていただきます。」


玄関に入ると大きなホールになっておりシャンデリアが吊り下げられていた。正面にはホールに見合うだけの大きな階段があり途中から左右に分かれている。未緒は豪邸を見慣れてはいたが、田舎家風の外見と違う豪華な内装に驚いた。

「おかしいだろう?外見だけ質素なんだ。中身はみんなこんな感じだよ。何を考えて作ったんだか...。プライベートスペースは右側なんだ。左は下はボールルーム上はゲストルームなんかがある。とりあえず、君の部屋は右側にしたよ?家族だからね。」

階段を上がり、廊下を進むと5つ目のドアをジェフが開けた。

「どうぞ。こちらを使ってくれ。ちゃんと鍵もある。」

部屋は壁こそないものの、ソファーのあるリビングスペース、ベッドのスペースとがゆったりととられていた。

「あっちがバスルームとクローゼット。荷物は家政婦に言えば片付けてくれるよ。」

「いえ、少ないですから自分でできます。あちらのドアは?」

ソファーのそば、暖炉の横にあるドアを指して未緒が聞いた。

「あぁ、あれは僕の部屋だ。」

「!?」

目を丸くした未緒に慌ててジェフは答える。

「大丈夫。あそこも鍵がかかるから。通いの家政婦は僕の子どもの頃からいた人だから、親戚連中のことも知ってるんだ。あれこれしゃべる人ではないけれど、契約の話はできないからこれで我慢してくれ。続き部屋にしただけでもがんばったんだ。なぜ寝室が別なのか説明するのに苦労したんだから...。」

「なんて説明したんです?」

「えっと...。日本では別が普通なんだと...。」

「かなり苦しい言い訳に聞こえますけど?」

「...分かってるよ。他に思い浮かばなかったんだ。」

ジェフが情けなさそうに顔をしかめたのを見て笑いがこみあげる。

「わかりました。聞かれた時はそう答えます。」

「悪いね。そういうことにしておいてくれ。そうだ、勉強するなら部屋を用意しよう。書斎も好きに使ってもらって構わないから。」

「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。」