頭の痛い問題から目をそらそうとして、また新たな問題を見つけてしまった。
未緒の身の安全をどうすれば守れるだろうか...。
『本郷』の名。
日本では一般的なのだろうか?
何度か日本人と仕事をしたが今までに会ったことはない。
きっと『スミス』というほど多くはないだろう。
それに財閥と言われるほどの旧家だったようだ。
名前を聞いて未緒の父を思い出す者もいるかもしれない。
さらに未緒の傷...。
この二つで『本郷未緒』を正しく思い浮かべる者がかなりいるのではないか。
どうにも頭が混乱している。
未緒、ライター、暴漢、ゴシップ、結婚、遺産...。
単語がとりとめなく頭に浮かんでは消える。
!!!
僕と未緒が結婚したらどうだろう?
未緒は姓をかえることで素性がわかりにくくなる。
僕は遺産が手に入り、当初の計画も中断しなくて済む。
とりあえず、彼女には仕事をやめてもらったらどうだろうか。
その間に傷を治し、僕の姓で仕事を再開する。
治療費は僕が出したっていい。
多少のブランクがあっても未緒ほど優秀ならすぐにでも仕事はみつかるだろう。
そして、ほとぼりの冷めた頃に離婚する。
僕はほんのちょっと結婚生活を我慢しなければいけないけれど、未緒の安全も図れるし遺産も手に入ることを考えればそのぐらい些細なことだ。
もちろん離婚後も未緒には、僕の姓をそのまま使ってもらってかまわない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
就業後にジェフは未緒を食事に誘うことにした。
「今夜の予定は何かある?」
「残業ですか。特に予定はありませんから大丈夫ですけど。」
「そう?じゃあ行こうか。」
「仕事じゃないんですか?」
「たまには食事でもどう?」
「お断りします。プライベートでボスと出かけるのは私の主義に反します。」
帰り支度をしていたジェフは断られるとは思わず心外だといった目で未緒を見た。
「君の主義は初めて聞いたよ。知らなかったな。」
「初めて話しますから。それに、今までお誘いを受けたことがありませんでしたから話す必要がありませんでした。」
にべもなく断られジェフは切り札を切ることにした。
「確かにプライベートな件を話したいんだ。だからオフィスではいかがなものかと思ってね。食事が嫌なら、僕の家でも君の家でもいいんだよ?」
未緒は片眉をわずかにあげる。
「プライベートな件とは何のことです?」
ジェフは未緒の首にそっと触れる。
「わかるだろう?」
ジェフの言わんとしていることを理解した未緒はわずかにあげた眉を下げため息をつく。
「私が断れないと思って...。それは脅迫というのですよ?」
「脅迫?人聞きの悪い!戦略といってくれ。ではいいね?僕のところと君のところどっちがいい?」
「何をおっしゃっているんです?レストランに決まっています。個室をお取りなのでしょう?」
「さすが、わかっているね。ではいこうか。」