あのあと、遺言について確認したが、それは正当なものだった。

僕にとっては全く正当なものではないが...。

ともかく、法律上は有効なわけだ。

屋敷には興味がない。だが、信託財産は絶対に必要だ。あれがなければ僕の計画は水の泡だ。


ふぅ~。

八方ふさがりの状態。

遺言については今のところ結婚以外に解決策がない。

だが、結婚する気はない。

とりあえず、目の前の頭の痛い問題から目を逸らして今はメールや手紙を開封することにした。


ジェフは1通の封書を開けた。

数枚の書類に目を通すとその内容に驚愕した。


それは日本で未緒を襲ったバーテンダーについての報告書だった。

名前、現住所、家族構成、学歴、職歴、借金の額などが事細かに書かれている。

父親の会社が未緒の父に騙されて倒産してから、借金のために家族がバラバラになっており、男が未緒に語った内容の通りだった。

しかし、ジェフが驚いたのは男の経歴ではない。

未緒の父についての報告だった。


本郷の家は旧家で財閥といっていいほどの家柄だ。

父の会社も誰もが知っているような大企業だった。

親族間の覇権争いから実の弟一家の殺害、証拠隠滅のためのもう一つの一家殺害、バブル経済崩壊による会社経営の悪化から詐欺を繰り返していたことなどが書かれていた。

ご丁寧に当時の新聞や雑誌の記事のコピーまで添えられており英訳もついている。

自分の読んだものが信じられなくてもう一度読み返したが、何度読み返してみてもその内容が変わるはずもなくジェフは動揺がおさまらなかった。


ふと最終ページに目がとまる。


バーテンダーがフリーライターに接触したとある。

フリーライターについての記述もあり、ライターとは名ばかりでゴシップ専門。脅迫まがいのこともしているらしい。雑誌の記事の中にライターの名前が一致するものがあったが、それは記事の中で最も下世話な内容のものだった。

これは何を意味するのか...。

バーテンダーが未緒を売ったのか?

僕たちはバーテンダーにどこまで情報を掴まれただろうか。

あのバーで僕は何の話をした?

確か仕事の話をした。

小麦、日本企業名、クライアントの企業名も出たかもしれない。

ホテルの予約で僕の名前もわかっているだろう。

そこからたどっていけば、現在の未緒の居場所を探るのはそんなに難しくない。

もし、ライターに未緒の所在がわかってしまったら?

脅迫やゴシップの対象にならないだろうか...。

それに未緒は自分の傷を『呪縛と懺悔』と言っていなかったか?

彼女が傷を治さない理由は未緒の父に関係するのだろうか。

報告には未緒の傷については何も書かれていなかったが...。


さらに、事務所に未緒のバックグラウンドがわかってしまったら?

事務所は未緒を解雇するだろうか?

報告書にあるのは全て未緒の父の犯罪で未緒に罪はない。

しかし、クリーンなイメージを大切にする法律事務所だ。

犯罪者の娘、しかも私利私欲のための殺人とくれば...。

多分...もっともらしい理由をつけて解雇されるだろう。