カットの声とともに休憩になった。
久遠は下着姿のため素早くローブをはおると楽屋へ戻った。
楽屋のドアを閉めたと同時に詰めていた息を吐く。
はぁ~。
どうにかごまかせただろうか?
何度もベッドシーンは経験している。
でもこんな風になったのは初めてだ。
未緒が震える様は本物だった。
いつの間にあんな演技ができるようになったのだろう?
震える『未緒』を守りたいと『ジェフ』は本心から思った。
夢うつつのシーン...。
あれは『ジェフ』だったのか、『久遠』だったのか...。
自分でもその境界線がよくわからなかった。
本当に俺はもう君に『ぎゃふん』といわされてるよ?
はぁ~。
サポーターはいててよかった...。
どうか彼女が気付いていませんように。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
すっぽりと背後から包まれた時の安心感。
爽やかな杜の匂い...。
つけている香水がちがうのか敦賀さんの時とは違う。
でもまるで、森林浴をしているかのように安らげるの。
やっぱり、妖精さんじゃないのかしら...。
大きな手もあったかくて...。
...。
突然、キョーコは羞恥に真っ赤にそまった。
あの手が自分の脇腹をさすり、もうすぐささやかな胸に触れそうだった。
唇は首筋に寄せられ肩を食んでいた。
いくら仕事とはいえなんて破廉恥な!
ドキドキしたのは誰?
『未緒』が?それとも『キョーコ』が?
いいえ。アレは未緒の気持ちよ!
だってこのあたりから二人は惹かれるようになるんだもの。
はぁ~。
『ぎゃふん』と言わせるつもりが自分が言うハメになるなんて。
私ってば、まだまだ未熟よね...。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
久遠の奴!!
やっぱり、やらかしやがった。
撮影なら『ジェフ』だから大丈夫なんて言ってたけど違ったじゃないか!
俺は『敦賀蓮』の演技をずっと見てきたけど、お前がベッドシーンで反応したのなんて見たことがなかったぞ?!
上手く隠したつもりかもしれないけど俺にはわかる!
...。
はぁ~。
まっ、仕方ないか、男の子だもんな。
しかもお預けくらってるんだもんなぁ。
台本以上のことをしなかっただけ褒めてやるか...。
問題はキョーコちゃんだよな。
撮影中はちゃんと『未緒』だったけど、カットの声が掛かった途端固まってたもんな。
まさか、気付いちゃったとか?
社はキョーコの反応が気になり楽屋のドアをノックした。
返事を待って中に入る。
「キョーコちゃん、大丈夫?」
「えっ?!大丈夫...ですよ?」
キョーコの慌てぶりに社はやっぱり気付かれたかと思う。
「あのね?アレは仕方ないと思うんだ。」
「そうですね。仕方ありませんよね...。」
俯きワントーン低い声で答えるキョーコに社は必死に言い訳をする。
「その...。ちゃんとジェフだった。久遠じゃなかったよ。でも、だからこそ無意識で未緒に反応したというか...。ほら、このあたりからジェフは未緒に惹かれていくだろう?その前段っていうか伏線っていうか...ねっ?」
「そうですよね...。社さんから見てもちゃんと久遠さんはジェフでしたよね。私ったら...。」
(久遠さんはちゃんと演技してたのに、自分が演技していたか分からなくなってしまうなんて。)
「わかってくれた?!」
「えぇ、私がまだまだなのは良くわかりました。今まで以上に精進したいと思います!」
拳を握り気合いをこめるキョーコを見て社は本当に自分の言いたいことが通じたのか甚だ疑問だったが、この話を蒸し返すのも気がひけたのでこれで終わりにすることにした。