「蓮。」


社は誰もいない廊下で久遠に呼びかけた。

久遠は背中を一瞬緊張させたが、すぐに振り返りすまなそうに眉をさげた。


「すみません。言おうと思ってたんですけど...。」


「やっぱり、蓮なのか?」

社は自分で言っておきながら、まだ信じられない様子だった。

「はい、蓮です。あの...。言い訳聞いてもらえますか?」

「言い訳...あるのか?」

「はい。ただ、ここでは...。長くなりそうなので、あとで俺のホテルででもどうですか?」

「わかった。じゃあ、撮影が終わったら...。」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


キョーコを送り、社は久遠の泊まっているホテルにやってきた。

チャイムを鳴らすと、部屋着に着替えた久遠が出てきてソファへ案内し、お茶を出す。

社は言われるままにソファにかけ、久遠が座るのを待った。


「えっと...。すみませんでした。」

「何が?」

社の表情がないのを見て、久遠はいたたまれなくなった。

「俺が蓮だって黙っていて...。」

「...俺ってそんなに信用...ない?」

「いえ、そんなことありません。誰よりも信用しています。長くなるんですけど聞いてくれますか?」

「あぁ...。」


久遠は社に、なぜ『敦賀蓮』を演じるようになったのか、どうして『久遠』に戻る気になったのかを話した。

社は自分の想像を超える話しに絶句し、『蓮』が今まで誰からも一線をひいていたことが分かる気がした。

キョーコとの関係をなぜ進めようとしなかったのかも...。


「『久遠』に戻ったのに、どうして俺に話してくれなかったんだ?」

「それは...。俺が蓮だってわかったら...。社さん、俺とキョーコちゃんをどうにかしようとしますよね?」

「それは、もちろん。」

「そうなると、楽屋で二人きりにしたり、食事に託けて誘ったりしますよね?」

「そりゃあ、そうだろ。」

久遠の言いたいことが社にはさっぱりわからない。

やっと本当の自分に戻ったんだ、今度こそ遠慮しないでキョーコちゃんを口説けばいいじゃないか。

久遠は怪訝そうに自分を見る社にため息をついた。

「だからです。俺からキョーコちゃんを守ってほしかったんです。社さんなら、絶対に守ってくれると信じてたので。」

「全く意味が分からないんだけど?」

「そうですよね、すみません。言わずに済むなら言いたくなかったんです。キョーコちゃんを守ってもらうには説明しないわけにはいきませんでしたから。でも、言ったら軽蔑されて、本当の意味でキョーコちゃんに近づけさせてもらえなくなる気がして...。」


久遠は久遠に戻ってから焦るあまりにキョーコにしてしまったことを話した。そして、キョーコの許可がない限り絶対に触れないと誓ったことも...。


「なんだ、それ?」

社は呆れたような声を出した。

「ですよね?やっぱり呆れますよね...。」

久遠は何とも情けない声を出してうなだれる。

「二人とも不器用で生真面目すぎるよ...。」

「えっ?」

「そりゃね、キョーコちゃんにしたことは許されることじゃないけどさ。お前も十分反省してるみたいだし、何より彼女が許してくれてるならいいだろう。それにキョーコちゃんもお前のこと好きみたいだし。」

「そう思います?!」

さっきまでうなだれていたのが嘘のように瞳をキラキラとさせる姿に社は特大わんこの耳としっぽをみる思いだった。

「あぁ、思うよ。じゃなきゃ、そんなことした男にあんな笑顔見せたり弁当作ったりしないだろう?」

「そうですよね?!」

喜んでしっぽを振る姿が見えるようだ。


社がぐふふといつものからかう時の笑いを浮かべると久遠は警戒の色をみせる。

「なっ、なにか?」

「お前さぁ、スタッフになんて呼ばれてるか知ってる?」

「なんですか、突然...。普通に『久遠さん』って呼ばれてますよ。」

「そうじゃなくて...。お前、陰で『忠犬 久遠』って呼ばれてるぞ。」

「?」

「キョーコちゃんに近づく奴は威嚇するし、餌付けされてるし。女性からの誘いは全て断ってキョーコちゃん以外は目に入らないって感じだし。キョーコちゃんがいないと寂しそうだし、側にいると途端に機嫌がいいし。なっ?まさに忠犬ってかんじだろう?」

「忠犬って...。そんなにダダ漏れですか?」

「だって、隠す気ないだろう?」

「まぁ、そうですね。もう隠す必要がないので...。」

「ははは。お前って極端だな。『蓮』は同じダダ漏れでも隠そうとしてたぞ?」

「うっ!黙ってて本当にすみません。社さんなら許してくれるんじゃないかって...。つい甘えてしまいました。」

「甘えてくれたんだ...。まぁ、黙っていられたのはショックだったけど、お前の事情もわかったし、もういいよ。それに、俺は今の感情豊かなおまえのほうが好きだよ。人間臭くてさ。」

泣きそうだった気持ちが『甘えてたんです』の一言でなんだかくすぐったい温かい気持ちに変わった。『蓮』は誰も近づけなかったけれど、『久遠』は自分から近づいてきてくれた。

「許してもらえるんですか?」

「許すも許さないも...。俺は『お兄ちゃん』のつもりだし。ダメな子ほどかわいいってね。ほんと、今まで良くがんばってきたな。」

「あっ...ありがとうございます。」

久遠はうっすらと頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。





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