そっと玄関のノブを押しドアを閉める。
室内はフットライトのみで静寂に包まれている。
時計はもうすぐ2時になろうとしていた。
(良かった。間に合った。)
今朝は5時に出なければいけないが、どうにか滞在時間は3時間ある。
以前に滞在時間1時間、移動に往復2時間かけたらこっぴどく説教された。
「仮眠場所があるのに自分で睡眠時間を削ってどうするんですか、体調管理は役者の仕事です!」
それでも俺は彼女の顔がみたかったのに...。
それ以来、滞在時間が3時間を切るときは帰ってこずにに大人しく仮眠することというルールができた。
いつも通り、リビングにカバンを置くとダイニングに向かう。
テーブルのメモを確認し冷蔵庫を開けると、そのままレンジに入れてメモ通りに温める。
温まるのを待つ間に手早くシャワーを浴び、ダイニングに戻り夜食を食べる。
使った食器は洗ってふせておくと、これまた手早く寝支度を整えて寝室へ急いだ。
玄関の時よりも音をさせないように慎重にドアを開け閉めする。
ちょっとやそっとのことでは起きないのは知っているがそれでも危険は最小限にするために慎重を期する。
ルームランプの仄かな明かりが部屋をぼんやりと灯しており
ベッドの左端が膨らんでいるのを確認するとわれ知らず笑みがこぼれる。
(いつも端で寝るんだから...。)
付き合って2年、恋人同士になって1年、一緒に住んで半年。
遠慮しているのか落ち着くのかよくわからないが彼女は一人の時は端で寝る。
起こさないように彼女をそっと真ん中に寄せベッドに潜り込む。
すると必ず、彼女は子猫のように俺の胸にすり寄ってくる。
最初は起こしてしまったのかと思って名前を呼んだりしてみたのだが聞こえるのは穏やかな寝息ばかりだった。
翌日にそれとなく聞いてみたが、全く覚えていなかったので無意識なんだろう。
他の誰かとでもこうだったらどうしようと思わないでもないが俺以外の誰かと寝るなんて絶対にあり得ない(させない)から、これは無意識でも俺を求めてくれているんだと勝手に解釈し、ひとり毎回ほくそえんでいる。本当は少しでも起きている彼女に会いたいのだが、そこは『無意識のすり寄り』で我慢する。
彼女を抱きしめ、胸一杯に彼女の香りを吸い込む。
(あぁ、帰ってきたんだなぁ。)
俺の帰る場所は家ではなく彼女の隣になった。
彼女の頭にキスをしてようやく俺は眠りについた。