ピンポーン

未緒がシャワーから出たところで部屋のチャイムがなった。

ドアスコープから覗くとホテルの制服を着た男が立っていた。

「何かしら?」

「ルームサービスです。」

「頼んでないけど?」

「お連れ様からです。」


ジェフとは先ほど別れたばかりだ。しかもついさっきまで一緒にラウンジで飲んでいたのだ。

あとは寝るだけだと言うのに一体何を頼んだのだろう?

まぁ、来てしまったものは仕方ない。未緒はチェーンを外しドアを開けた。

従業員がお茶とデザートをワゴンに乗せて入ってくる。

ワゴンの上を見た未緒は呆れつつも笑みがこぼれた。

ジェフは私が寝る前にデザートを食べるような女だと思ったのかしら?


「こちらでよろしいでしょうか?」

従業員は部屋の奥の窓際に置かれたテーブルにワゴンを運んだ。

「えぇ。いいわ。ありがとう。」

出ていこうとした従業員を先に通すため一歩引いたところで突然ベッドに押し倒された。

馬乗りになり、腕で思い切り喉をもう一方の手で口を押さえられ声が出ない。


「ラウンジで酒なんていい御身分だな。」

地を這うような低い声で男は言った。目は獲物をとらえた獣のように尋常でない光を帯びている。

突然のことと全く訳が分からないので未緒は眉を寄せて相手を見た。それはラウンジで酒を出してくれたバーテンダーだった。

どうしてと尋ねたいが声を発することができない。
「なんでかって、顔してるな。俺のことなんか知るわけないか。えっ、本郷のお嬢さんよぅ?」

「!」

「お前は俺のことを知らなくても、俺は知ってるぜ。その傷は忘れられないよな。」

「...。」

「お前の親父に俺の親父は騙されたんだ。お蔭で親父の会社はなくなっちまうし、借金で首がまわらねぇ。なのに、お前たちは働きもせずに海外で優雅にお過ごしってか?」

「!!!」

未緒は違うと言いたかった。母と姉はそうかもしれないが、自分は働いている。企業弁護士になって零細企業を不利な契約から守りたかった。理不尽に倒産に追い込まれないように、その家族が悲しまないで済むようにしたかった。父のような人間に騙されないように...。


「ふふっ。俺の家族はもうバラバラなんだ。何がどうなっても構わねぇ。俺たちの苦しみを知れ!」

男は自嘲的な笑いを浮かべると未緒の口から手を離し、両手を首にかけた。

未緒は慌てて男の手を掴み、とめようとしたが男の力は徐々に強くなるばかりで未緒の首から外れることはなかった。首を押えられて声も出ない。このままでは本当に殺されると思った未緒は男の手から自分の手を離し思いきり壁をたたいた。


(お願い。気づいて、ジェフ!!!)