「キョーコ!!!会いたかったわぁ~!」
火照った頬をどうにか冷まそうとしていたところへ声が響いた。
「ジュリママ?!」
キョーコは驚いて振り返るとほぼ同時に抱きつかれた。
「そうよ~。キョーコと共演できるなんて嬉しいわぁ。ボスに頼んだ甲斐があったわ。」
「えぇ?!共演ってジュリママも出るんですか?」
「キョ...キョーコちゃん!いま、ジュリエナが!」
社が慌てて楽屋に走ってきた。
「って...。なんで抱きつかれてるの?」
キョーコとジュリの関係を知らない社は驚いて目をまん丸にしている。
そんなことはどこ吹く風のジュリは、いまだにキョーコに抱きついており今にも食べてしまいそうなぐらい頬を寄せている。
「あっ、あのこれは...。ジュリママ離してください!紹介したい方がいるんです!」
耳元で大きな声を出すとやっとジュリは離れてくれた。
「紹介したい人って?」
首をかしげる仕草が少女のように可愛らしいが決して嫌みではなくジュリには良く似合って見えた。
「こちら、今は私のマネージャーをして下さっている社さんです。こないだまで敦賀さんのマネージャーさんだったんですよ。」
「初めまして。京子のマネージャーの社です。」
「あら、あなたが敏腕マネージャーの社さん?キョーコもお世話になってるのね?どうぞよろしく。」
そういってニッコリと微笑むと握手を求めるために右手を差し出した。
ニッコリと微笑まれた社は、その美しさに見惚れていたが「社さん?」ともう一度声をかけられて漸く我に返り慌ててその手をとった。と思ったらすぐにジュリはキョーコに向き直る。
「そうだ!キョーコ、次のお休みはいつ?クーにいつ遊びにくるのか聞いてきてって頼まれてるの。新しい妖精も増えたのよ?だから妖精の森を少し改造しようかと思って...。キョーコが来てくれないと私も困るの...。」
期待に満ちた目でジュリはキョーコを見つめる。
「えっと...。しばらく撮影が続くんですよね。社さん?」
キョーコはジュリの視線に耐えられず、社に助けを求めた。何かをねだる甘えた瞳。久遠が子犬ならジュリは子猫だ。いくら親子でもこんなところを似なくてもいいのにとキョーコは思った。
「あぁ、そうだね。アメリカでの撮影はスケジュールが詰まってるから...。」
「えぇ?!そんなの困るわ!キョーコがきてくれないと私の寿命が...。」
突然泣きだしたジュリに社は狼狽した。キョーコはもう何度か『私の寿命は』攻撃を見舞われていたので苦笑いをするしかない。
「あっ、あのう。今回は無理ですが、日本での撮影が終わって、もう一度戻ってきたときには時間を作りますから...。それでどうにか!どうにか納めていただけませんかぁ。」
ジュリに涙目で縋られ社まで涙目になっている。
「そんなに待つの?だったら、3日はちょうだい?」
涙目のまま、上目づかいに見上げられ、社はぶんぶんと大きく頷いた。
途端にジュリの顔に笑顔が広がる。
「本当!?じゃぁ、約束よ!キョーコ、また後の撮影でね。」と言って来たときと同じ勢いで扉が閉まった。
「キョーコちゃん?なんでジュリエナが?」
社は呆然とした顔のまま尋ねた。
「あっ、あの...。ドラマでこちらに来たときに先生のお宅に遊びにいかせてもらったことがあって...。それで...。」
「そうなんだ...。」
社は何となく引っかかるものがあったのだが、それがなんであるのかはわからなかった。
キョーコのところへ挨拶に行く前にジュリは久遠の楽屋にも寄っていた。
キョーコが帰国する前に和解したことを二人でクーとジュリに報告に行っている。
現場を見ていたクーは、『キョーコが許しても自分は許さない』と言い張っていたが、キョーコの必死の説得とジュリの『クーのわからずや!』という非難に最後には折れるしかなかった。
とはいえ、何となく気まずさは残るもので、実家に顔を出しそびれているうちに撮影が始まってしまったのだ。
突然現れたジュリに久遠が驚くのも無理はない。
「どうしたの?」
「なぜ?息子の所へきてはいけないの?」
「もちろん、そんなことはないよ。でも、ここはスタジオだよ?」
「だって私も出演するんですもの。」
「???」
「ボスに頼んで出演させてもらったの。ふふ。クーったら私が共演するって聞いてとても悔しがってたわ!」
「キョーコちゃんのところへはもう行ったの?」
「まだよ。これから!」
「ここでは親子だって言わないで下さいよ。それに『蓮』だったことも...。」
「わかってるわよ。それを言わないことを条件にボスが許してくれたんだもの。」