パーティーでの未緒の振る舞いは完璧だった。

テーブルマナーに加え、優雅な所作、語学力の高さ。

英語、日本語はもちろんイタリア語、フランス語まで話せた。

そんなことは全く知らなかったジェフは驚きを隠せない。そして、自分からは積極的に話すことは余りなかったが聞き上手と言うのだろうか相手に気分よく話させる術に長けていた。

オフィスで未緒が誰かと話しているのを見た覚えのないジェフは『仕事はできるが変わり者』との認識を改めざるを得なかった。いや、誰とも馴染もうとしないのはやはり『変わり者』かもしれない。

着物の珍しさも手伝って常に未緒の周りには人が絶えなかったが、ようやく人がいなくなったところでジェフは未緒に話しかけた。

「君にこんな特技があるとは知らなかったよ。」

「なんのことです?」

「何ヶ国語を話せるんだい?」

「あとは、スペイン語くらいでしょうか?でも、日本語以外には英語しかビジネスでは使えませんね。他は日常会話ぐらいです。」

「十分だったよ。それに、会話も上手い。僕相手にもそうしてほしいね。」

『僕相手』とはどういう意味なのか。話を聞けと言うのか優しくしろと言うのか未緒は真意を図りかねた。自分で言うのもおかしいがアシスタントとしてはよくやっていると思うのだが...。

「会話と言っても、相手が勝手に話していただけで、私は聞いているだけでしたけど?」

「いやいや、見事なものだったよ。君はほとんど話していないのに会話をコントロールしていた。それは君の武器になるだろう。」

未緒はジェフを見上げて片眉をあげた。

ジェフは何かまずいことを口にしたかと思ったが特に問題になることはなかったはずだと思い返す。

「何かな?」

「いえ、私を褒めていただいてもいいことはありませんよ。」

「僕だって本心から褒めることもあるよ?」

「そうですか?では、普段は社交辞令なんですね。」

「随分、可愛くないね?」

「えぇ、よくご存じだと思っていましたけど?」

しばし見つめ合っていたが、同時に笑ってしまった。

「わかった。降参だ。何か飲むかい?とってくるよ。」

「では、白ワインをお願いします。」

「OK。少し待っててくれ。」



ジェフが未緒から離れたすきにパーティーの主催者であるクライアント父娘が近づいてきた。

「やぁ、ジェフ、楽しんでくれているかい?」

大きな腹を揺らして下卑た笑いを浮かべている。娘はそれなりに美しいがその身体にいくらかかっているのかは聞きたくもない。

「えぇ。お蔭さまで楽しませていただいていますよ。」

「今日のパートナーは誰だい?キモノとは珍しい。」

「あぁ、彼女は日本人で僕のアシスタントですよ。」

「あら、じゃあ、お仕事のパートナーなの?」

あからさまに安心した表情で娘は言った。

「えぇ、今はね。仕事のパートナーですよ。」

ジェフはわざと『今は』の部分を強調して言った。

「へぇ、『今は』ですの?ってことは『これから』は『まだ』わかりませんよね?」

意味ありげな視線を投げかける娘に閉口し、これ以上話す気にもなれず、適当なことを言ってその場をあとにした。

とりあえず、主催者に挨拶もしたし話したかった相手とも話すことができた。これで帰っても問題はないだろう。僕のアシスタントにワインを1杯飲ませたらアパートに送って久しぶりに馴染みのクラブにでも顔を出そうかと思っていた。