キョーコはクーの家に連れてこられていた。
家政婦のサラがブランデーを入れた温かい紅茶を出してくれた。
少し口に含むと身体が温まってくる。
クーはキョーコの斜向かいに座っていた。
「何か話したい?それとも話したくない?」
キョーコは紅茶のカップを持ったまま黙っている。
「俺じゃないほうがよければ、しばらくすればジュリが帰ってくるし、君のルームメイトがよければ彼も明日には帰ってくるそうだから...。
ただ、申し訳ないんだが彼が帰るまではイヤかもしれないがここに泊まってくれないか。キョーコを一人にするのは心配だから。」
「...。」
キョーコが話したくないのだと察したクーは黙っていることにした。
どの位黙って座っていたのか、暫くしてようやくキョーコがカップを置くとクーが口を開いた。
「キョーコ、私も怖い...か?」
キョーコは小さく首を振る。
「側に座ってもいいか?」
今度は小さく頷く。
その仕草にクーは安堵してキョーコの隣に座ると手を握った。
「大丈夫か?怖くない?」
また、頷くキョーコに息をつめていたクーは小さく吐き出す。
「キョーコが話したくなるまで何も話さなくていい...。
ただ、私の話を聞いてほしい。いいかい?」
キョーコはもう一度頷いた。
「どこか痛いところか辛いところは?医者を呼ぼうかと思うのだが...。」
キョーコは首を横に振る。
クーの見たところ、未遂のようだったし目立った傷はなかったので医者に見せるほうが酷かと思い、それ以上は勧めなかった。
「久遠の...。」
名前に反応したのかビクリと身を固くしたキョーコにクーは慌てて言い直す。
「...彼のしたことは許されることではない。もし、キョーコが何らかの訴えを起こしたいなら私が全面的に協力する。それから、この家の敷居は二度とまたがせない。キョーコにも金輪際近づけないようにしよう。」
キョーコはその言葉に驚いて顔をあげる。
「そんな...。だって、やっと戻ってきたのに...。」
「確かに、息子を愛しているが...。
同じように娘のキョーコも愛しているんだ。その娘を傷つけるのが彼だとしたら私は尚更彼を許せない...。」
「でも、私なんかのために...。そんな...。」
クーがどれだけ久遠を愛してきたかを知っているキョーコは自分なんかのために親子が引き離されると思うと堪らなかった。
「いいんだ。これは私の決断であってキョーコは気にしなくていい...。」
そう言ったクーの表情が苦渋に満ちていて、どう言えば二人を引き離さずに済むのかわからず、言葉が続かない。
「さぁ、今日はお休み。少しでもいいから寝るんだ...。
明日も撮影だろう?それとも暫く休むかい?」
「休みません...。具合が悪い訳じゃないから、行きます。」
「そうか...。なら今日はもう寝るんだ。」