女性陣が年齢やパートナーの有無に関わらず久遠に見惚れるのを見て、キョーコは敦賀さんもこんな風に見られていたと思いだし自嘲めいた笑みを漏らしてしまった。ただ、敦賀さんは誰でも等しくお友達風な笑顔で牽制していたが、久遠は明らかに俺に近寄るなオーラを放って近寄らせないようにしている。

「どうかしたの?」

突然、唇の端に笑みを浮かべたキョーコに久遠は尋ねた。

「ん?みんな、久遠さんを見てるなって...。やっぱり王子様なのかと思って。」

「王子ねぇ...。だとしたらキョーコちゃんはお姫様だね?男どもはみんなキョーコちゃんを見てるよ。」

「ふふ。そんなことないわよ。これはコスメの魔法だもの。それも女王様の魔法だからとびっきりなの。

でもね?本当の私は違うから...。」

相変わらず、自分の魅力には無頓着なキョーコを苛立たしく思いながらも『本当の私』をどんな風に考えているのか気になり続きを促そうとしたがキョーコはパウダールームに行ってくると言って久遠から離れて行ってしまった。まさか、ついて行くわけにもいかず一人で待っているとここぞとばかりに女性たちに囲まれてしまった。


キョーコは鏡を見ながら溜息をついた。

確かに、自分ではないようだ。美しい...のかもしれない。

でも、これは『本当の私』ではない。では、『本当の私』って?

最初の動機こそ酷いものだったけれど、それはすぐに芝居の楽しさに取って代わられた。芝居を通して『最上キョーコ』を作り上げたいと思うようになった。今では、仕事のオファーもそれなりにもらっていて「次もまた一緒に」なんて言ってくれている監督などもいる。世間でも実力派女優なんて言ってくれている。まだまだ敦賀さんには遠く及ばないけれど、自分なりに芝居は上手くなってきたと思えるほどになった。

でも...。でも『私』って?

芝居なら台本があって役作りができる。でも『私』には台本はない。

『最上キョーコ』って何だろう?

タレント?女優?ラブミー部員?あとは...?

もう1度鏡を見る。私を見つめる私...。


コンコン


ドアをノックされ無理やり『思考の扉』を閉めて、会場へ戻った。

キョーコが会場に戻ると久遠が女性たちに囲まれていたのでどうしたものかと思っていたら、男性たちに囲まれてしまった。久遠に威嚇されていたにも関わらず、キョーコが一人でいたものだからこれ幸いと寄ってきた馬たちである。

「やっと話しかけられたよ。」

「名前は?」

「アンバーとは知り合い?」

などなど質問攻めにあい、自己紹介を次々にされる。キョーコは律儀にもひとつずつ丁寧に答えていた。


久遠は周囲の男たちの視線が一点に集中しているのを感じて嫌な予感がした。振り返って男たちの視線の先を見ると馬に囲まれたキョーコの後ろ姿があった。

久遠はずっとキョーコにピッタリと寄り添っていたので気付いていなかったのだ。

ジュリが言っていたではないか。大人っぽくすると。

クーが言っていたではないか。絶対に久遠から離れるなと。

久遠はずっとキョーコに寄り添っていたから前からしか見ていなかった。しかも、さっきまで大判のストールを肩から掛けていたから背中は見えていなかった。パウダールームから戻ったキョーコはストールを手に持っている。前から見るとホルターネックの踝まで丈のあるシンプルなアイラインドレスだった。ウェストが細く女性特有の魅力的な曲線を強調しており、キョーコにはよく似合っていると思っていたのだが...。

後ろから見ると背中はウェストラインまで大きくあいており、シミ一つない滑らかな肌を惜しげもなく晒している。キョーコが笑うたびに動く肩甲骨が何とも言えなく妖しげだ。スカート部分がヒップを覆っているのだが脚の始まりあたりからすぐに深いスリットが入っており、スラっとした脚がキョーコが動くたびに見え隠れしている。脇のスリットではないがために内腿が見えてしまう。その脚に触れたいと自分の腰に巻きつけたいと邪な思いを抱かない男がいるだろうか。あの肌に触れたいとは?あの曲線をなぞりたいとは...?


(母さん、恨みますよ...。)

男たちの視線の意味を理解した久遠が囲んでいた女性たちを振り切ってキョーコのもとへ急いだ。