「お茶でも飲んでて?適当にキッチン使っていいから。すぐに着替えるよ。」
一人暮らしの男性の部屋に入ることが躊躇われて車で待つと言ったのだが、車に一人残しておくのも心配だからと無理やり部屋に連れて来られた。
キョーコは、壁のないその部屋に驚く。
部屋はいわゆるスタジオタイプで端にキッチンスペースがあり、その前にテーブルとイスがふたつ。
キッチンの後ろにドアがありそこに久遠が消えたということはバスルームなのだろう。
キッチンとは反対の壁にベッドがひとつ。ベッドの横にはパーテンションが置いてあり、一応ベッドルーム(?)になっていた。
部屋のほぼ中央にソファが窓に向かって置いてある。
部屋の片側一面は全て窓になっており、家具が最小限しかない部屋はがらんとしていた。
キョーコはお湯を沸かそうとキッチンにいった。カップを探したが、食器棚らしきところには食器はなく、インスタントコーヒーと紅茶のパックが置いてあるだけだった。シンクを見て溜息をつき、使ったままになっているカップやグラスを洗った。最も、それぞれ2つずつしかなかったのですぐに洗い終わったのだが。
紅茶を淹れ、どこで飲もうかと部屋を見渡す。キッチン前のテーブルは郵便物と小銭、鍵などが無造作に置かれ、椅子にはジャケットやシャツがかかっており、椅子の足元には靴が2足転がっていた。
ならばとカップを持ってソファに近づくとソファには何も置いていなかったが、コーヒーテーブルには読みかけの台本、ここにも使ったグラスが一つ置きっぱなしになっていた。テーブルの横には数冊の本が山積みになっている。
とりあえず、カップを置く場所を確保しソファに座った。キョーコはがらんとして何もないと思った久遠の部屋に生活の跡をみつけると笑みをもらす。一人暮らしの男性の部屋は生活感の全くなかった蓮の部屋にしか入ったことがなかったので、随分と違うものだなと思っていた。
「お茶、わかった?」
バスルームから久遠が出てきて尋ねる。
「勝手にキッチン使わせてもらったから...。」
振り向いてすぐにキョーコは視線を窓に戻した。
キョーコの耳が赤いのがソファの後ろを通る久遠にもハッキリとみてとれ、いつかのバスルーム侵入事件を思い出す。
(クスッ。あの時は全く、反応しなかったけな...。)
「なななな...。なんで裸なの!!!」
「えっ?タオルは巻いてるけど?」
久遠は下半身にタオルを巻きもう1枚を頭からかぶりゴシゴシと髪を拭いていた。
「ほとんど裸でしょ!!」
「違うよ、タオル巻いてる。父さんのところで会ったときも水着だったし似たようなものでしょ?
あのときみたいに...する?」
久遠は自分の唇に人差し指をあてわざとソファの前にまわるとキョーコは更に真っ赤になり視線を泳がせた。
「で、でも...。ななな、泣いてないもの!」
「クスッ。泣いてたらいいの?
ごめんね。いつもの癖で着替えを持たずにバスルームに行ったものだから...。
これでも気を使ったんだよ。いつもはタオルも巻いてない。」
「!!!」
久遠は素知らぬ顔でパーテンションの後ろに回り、すぐにジーンズとTシャツを着てでてきた。
「お待たせ。じゃあ、行こうか。」
その夜は4人で楽しく食事をして帰路についた。