久遠はそれから1週間、毎日迎えにきた。

時には、朝も迎えにきてスタジオまでキョーコを送っていくこともあった。

いくら言っても迎えにきてしまうので、どうしたものかと思っていたがジュリが「キョーコが嫌じゃないなら好きにさせとけば?バス代も浮くし?」なんて言うので好きにさせることにした。実際のところ、お金に困っていたわけではないが「迎えがなくても大丈夫だ」と言い続けることに疲れてきていたので、ジュリの発言はキョーコの罪悪感をいささか軽くしてくれた。

それに『嫌』ではない。それどころか楽しい。久遠がコーンであったからなのか久遠とは身構えないで素の自分でいられるような気がする。それに、久遠と話していると蓮のことが忘れられた。バスにのっている間やジュリのいないひとりの食事などは、どうしても考えてしまう。それがこの1週間久遠が迎えにきて夕食をともにすることで蓮のことを考えずにすんでいる。

夜、ベッドで考えることはどうしようもないけれど...。



「ごめん。金曜日まで迎えにこられない...。」

家に送ってもらう車中で久遠が唐突に言った。

「ふふ。謝らなくていいのよ。最初からバスで行くって言ってるんだから。仕事?」

「うん。仕事...。オーディションというか契約更新というか...。」

「ホント?上手くいくといいね!!」

我が事のように喜ぶキョーコを久遠は嬉しさ半分寂しさ半分で見ていた。

「3日も会えないのに寂しくないの?」

「?」

「俺は3日もキョーコちゃんに会えないのは寂しい...。」

「えっと...。寂しい...かな?でも帰ってくるんでしょ?」

「『かな?』なんだ...。キョーコちゃんのその返事は会えないことよりもっと寂しいね。」

久遠の言い草に、ではどう返事をすれば良かったのかと考え無言になってしまう。


「...ごめん。俺の気持ちを押し付ける気はなかったんだ。金曜も20時?」

キョーコが固い表情で小さくうなづくとと久遠は苦笑を浮かべる。

「迎えにいくよ。父さんと母さんがその日はオフだから食事においでって。」




金曜日。

撮影が終わり、いつも久遠が待っている場所へ行ったがそこには誰もいなかった。

いつもキョーコよりも早くきている久遠がいないので「まさか事故?」なんて不吉なことが頭に浮かんだところへ慌てた久遠がやってきた。

「ごめん。飛行機が遅れて...。」

キョーコは事故などではなくて良かったと安堵して微笑んだ。

「大丈夫。私も今きたところだから...。」

「そう?でも今度俺が遅くなることがあったらスタジオのゲートから出ないで。夜に道路で待つなんてしないで?」

「そんなに遅い時間じゃないから大丈夫よ?」

「ダメ。何があるかわからないし。気をつけるにこしたことはないよ。」

「はいはい。わかりました。気をつけます。」

おざなりな返事に本当にわかったのかと久遠が眉をあげる。

「もう、わかったから!」


(フェミニストっていうか、過保護なんだから...。)


「ならいいんだけど。そうだ、家によっていい?空港から直行してきたから着替えたいんだ。」

「えっ?だってこれからお家にいくんでしょ?」

「食事は父さんのところだけど。そうじゃなくて自分でも家を借りてるんだ。いい年をした男が実家住まいってカッコ悪いでしょ?」

「そういうものなの?」

「そう、そういうものなの。」