「こちらでございます。」
スピーチの邪魔にならないようにホテルの人が会場に案内してくれることになった。
ドアの前までくると、久遠がキョーコの腰を抱きピッタリと寄り添った。
「久遠さん?」
久遠のスキンシップには慣れてきたキョーコだが、
ここまで身体が近いのは初めて会ったプール以来だった。
恥ずかしくて、赤面しながら見上げると蕩けそうな笑顔で久遠がささやいた。
「だって、エスコートだからね。離れないでね?クスッ。」
その笑顔と、耳元で囁かれたことでキョーコはますます赤くなり、瞳は潤んでいく。
その時、ドアが開いた。
「誕生日おめでとう!!かんぱ.....。」
スピーチ中の男性に近いドアがいきなり開いたため、キョーコと久遠に会場中の視線が集まる。
会場が一瞬、静まり返った。
注目を集め、間が悪かったことを悟るとキョーコは丁寧なお辞儀をして「すみませんっ」と謝った。その「お辞儀」と大きな声に更に会場中に?が溢れる。
久遠はキョーコの頭をあげさせると会場中を魅了する笑顔をみせ涼やかな声で言った。
「これは失礼。スピーチの途中のようですね。我々はお気になさらずに続きをどうぞ。」
スピーチ中の男性は久遠の声を聞くと慌てて「では遠慮なく、乾杯!!」と続けた。
その声にやっと会場中が乾杯の途中であったことを思い出し、そこここでグラスを合わせた。
その後、数人のスピーチが終わると歓談になった。
「さっきの誰だったのかしら?すんごい美形だったわよね。」
「ほんとうに、背も高くて翡翠色の瞳もキレイ...。」
「あのアジアンビューティーは誰だ?」
「瞳が潤んで艶っぽくて...。」
歓談になった途端に謎の美男美女に話題が集中した。
二人の登場と共に静かになったのは、間の悪さ以上に
その美貌にくぎ付けになったというほうが正しかった。
アンバーはお祝いの言葉を適当に受け流しながら考えていた。
(さっきのはだれ?私よりも目立つなんて...。
あんな人たち、招待してないし...。きっと使用人が間違えたのね。
あの子は怖気づいてこなかったのかしら?)
そこへ件の美男美女が近づいてきた。そのオーラにアンバーを囲んでいたゲストは道を空ける。
アンバーはその美男に、ブレイクはその美女から視線を外せなかった。
「アンバー、お誕生日おめでとう。せっかくご招待いただいたのに、なんだか間がわるかったみたいで。
先ほどは、本当にごめんなさい。パーティが台無しになっていなければいいんですけれど...。」
「えっ?あぁ、大丈夫ですよ...。」
その声と話し方に覚えがあるような気がしてアンバーは記憶を探る。
「キョーコちゃん?紹介してくれないの?」
男性が小首を傾げて連れの女性に聞いているのを見て、ブレイクが声をあげた。
「エッ、本当に?京子なの?」
ブレイクの問いにやっとアンバーも気付いたが、それでも目の前のアジアンビューティーと地味な京子が同一人物とは信じられなかった。
「あぁ、そうよね?こちらはアンバー。今、ドラマで共演しているメインキャストなの。
それから、こちらは同じくメインキャストのブレイク...。」
キョーコが久遠を紹介しようとすると、久遠は自己紹介を始めた。
「はじめまして。久遠といいます。いつも、キョーコちゃんがお世話になっているようで...。
あぁ、今日はお誕生日でしたね?私からもお祝いを言わせてください。」
そんなやりとりをしていると、いつの間にか周囲に人垣ができていた。
「おや、皆さんお祝いを言いたくて順番を待っていらっしゃるようだ。
あまり、主役を独占してしまっては申し訳ない。キョーコちゃん、これで失礼しようか...。」
「えぇ、そうね。では、またあとで...。失礼します。」
キョーコと久遠は軽くお辞儀してその場を離れた。
本当は、謎の美男美女の正体が知りたくてできた人垣だった。
久遠はそんなことは百も承知だったが、人垣にこじつけてその場を離れる理由にしてしまった。
(クスッ。驚いてたな...。キョーコを罠にはめようなんてするから...。
絶妙のタイミングで会場入りさせてくれたし、今日の主役は君じゃなくてキョーコだよ?)
不敵な微笑を浮かべる久遠にキョーコは眉をひそめるが、
そんなキョーコに気付いた久遠が「不敵」から「極上」の笑みに変える。
「何か飲もうか?乾杯もできなかったしね?」
通りかかったウェイターにシャンパンと炭酸水をもらってシャンパンをキョーコに渡す。
「久遠さんは飲まないの?」
「俺は車だからいいよ。キョーコちゃんはキライじゃないだろう?遠慮しないでいいよ。」
「う~ん。じゃあ、少しだけもらうわね。」
これが『蓮』だったら先輩をさしおいて自分だけアルコールを口にするなんて絶対にしないだろうなと思うと『久遠』とは距離が近いような気がして嬉しかった。
二人で話していると、間をおかずに共演者やスタッフが声をかけてくる
皆が一様にキョーコの変貌ぶりに驚いていた。
久遠はその間にもキョーコの腰に腕をまわしピッタリとくっついて離れなかった。
キョーコに少しでも興味を示した男には瞳で威嚇する。
そんなことを繰り返していたら、キョーコに話しかけてくる男はほとんどいなくなった。
「いたいた。京子!」
ブレイクがニコニコとこちらに近づいてくると久遠はあからさまに不機嫌な顔になった。
急に不機嫌になった久遠を不思議に思いはしたがブレイクが近づいてきたので、キョーコはそちらに顔をむけた。
「さっきはごめんなさい。アンバーは怒っていなかった?」
「大丈夫だよ、京子の変身ぶりに驚いてはいたけどね。
本当に綺麗だ。信じられないよ!」
ブレイクが大袈裟な身振りをしながら本心からの言葉を口にする。
「そんな...。これはコスメの魔法だから。」
他の男に褒められて頬を染めるキョーコに、不機嫌なまま久遠がブレイクに話しかける。
「キョーコちゃんはいつでも綺麗なんだけどな...。知らなかった?」
キョーコは自分のものだと言わんばかりに腰にまわす腕に力を込め、髪にキスをする。
「なっ、何するの?!久遠さん!それにキレイなんて...。」
ブレイクが目の前でじゃれている二人をいつもの礼儀正しい京子なのかと驚いてみているとアンバーが怒りを滲ませた歩き方でやってきた。
「ブレイク!パートナーなんだから側を離れないでちょうだい!」
「あぁ、ごめんよ。でも、いくらパートナーだからってパウダールームまではいけないだろう?」
「わかってるわよ。すぐに見つけられるところにいてちょうだい。まだ挨拶しなきゃいけないゲストがいるからいくわよ。」
アンバーに引っ張っられながら、ブレイクは振り返り手を振って言った。
「じゃあ、京子。また、撮影でね。」
「なんだか、嵐みたい...。」
「うん、竜巻?」
「もう1回謝ろうと思ったんだけど...。」
「うん、忙しそうだからいいんじゃない?」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。」
その後は、キョーコの顔見知りのスタッフや共演者と話しながら過ごしていた。