呼び鈴が鳴りインターフォンを覗くと、久遠が立っていた。
キョーコが慌ててドアを開けると
「お迎えにあがりました。お姫様。」と言って仰々しくお辞儀をした。
「どうしたの?こんなに早く...。」
時計を確認するとまだ9時だった。
「だから、迎えにきたんだよ。さぁ、支度して。」
訳もわからずにせきたてられて、キョーコはいつものカバンをとりあえず持ち鍵を閉める。
「確かに、今日は休みだけど、夜はパーティだから、夕飯は一緒には無理よ?」
「だから、迎えにきたんだって。さぁ、車に乗って。」
キョーコが連れて行かれた先は先生の家だった。
「待ってたわよ~!キョーコ!!じゃぁ、早速こっちね?」
大きなバスルームのような部屋に連れて行かれ、数名の女性に紹介された。
「じゃぁ、あとはよろしくね。終わったら教えてちょうだい。」
ジュリが部屋を出ていくと、よってたかって全身を見られた。
「では、脱いでいただけますか?」
「???」
「フルボディトリートメントということですので脱いでいただかないと...。」
状況を理解できずに後ずさると、女性たちに取り囲まれ下着まで全て脱がされてしまった。
「!!!!!」
その後は、もうどうにでもなれという気持ちでされるがままになっていた。
お風呂に入れと言われれば素直に入り、
寝転がれと言われれば寝転がり大人しく何やら塗られたり揉まれたりしていた。
昼食になっても終わらず、ここで食べた。
野菜をふんだんに使ったサンドイッチと搾りたてのミックスジュースは美味しかった。
今日何度目かの入浴は、薔薇の花が浮かび、本当にお姫様になったようでウキウキしていた。
時間だと声をかけられても出たくないくらいだった。
それでも仕方なくお風呂から出ると、バスローブに着替え隣の部屋へ連れて行かれた。
「ありがとう。御苦労さま。」
ジュリが声をかけると、女性たちはお辞儀をして出て行った。
ジュリはキョーコをじっと見つめると溜息をついた。
「は~ん。やっぱりね。もともと、綺麗な肌だけど磨けばさらに光るのね。」
大きな鏡の前に座らせると
ずらっと並べられた化粧品からいくつか選びだしてキョーコに塗り始める。
見たこともないブランドのものばかりだが、きっとキョーコの知らない最高級品ばかりなのだろう。
瓶だけ見ても、薔薇やリスなどをかたどっており見ていて飽きないものだった。
「あの...。これは?」
やっと、説明をしてくれそうな雰囲気になってキョーコは尋ねた。
「あぁ、だって今日はパーティなんでしょ。だから...ね。
私、メイクは得意なのよ。だから今日は私にさせて?
娘とお化粧なんてワクワクしちゃう!」
そう言ってる間にも、次々と瓶を手にする。
ジュリのようなスーパーモデルにメイクをしてもらえるなんて夢のようだった。
キョーコに触れるジュリの手も柔らかく、温かくてほっこりする。
「肌が綺麗だから、あんまり作りこまなくていいわね。
今日は少し大人っぽくしましょう...ねっ?」
楽しげにシャドーやチーク、リップをのせていく。
「うん!できた。汗引いた?じゃぁ、これ着てね。」
差し出されたのは、ラブミーつなぎの色を少し落ち着いた色にしたような濃紅(こいくれない)色のロングドレスだった。
「えっと、ここで...ですか?」
「えぇ、何か?」
(無理です!!恥ずかしいです。
女王様の前で私の貧相な体を晒すわけには...。)
「さすがにここでは...。ハズカシイのですが?」
「えぇ、女同士なのに?日本では皆でお風呂に入ったりするのでしょう?」
(そうですけど、あなたのような方は大浴場で見た事ありませんから!)
キョーコの様子を見て小さく微笑むと
「下着はそれを着けてね。」といって外へ出て行った。
ジュリが出ていくと、ドレスを手に取る。
その滑らかな肌触りは間違いなく極上のシルクだった。
バスローブの上から自分にあててみる。
(!!! コレヲワタシガキルノデスカ...?)
さりとて、ジュリが用意してくれたものを無碍にもできず
他に着るものもなく、とりあえず着てみることにした。
鏡を見て自分の姿に赤面しているとジュリが戻ってきた。
「思ったとおりね!!今日の主役はキョーコに決まりよ!!
さっ、髪をまとめて仕上げてしまいましょう。」
髪をまとめて仕上げると、ショールをとってくるわと言って再びジュリは出て行った。
暫くしてノックがしてドアが開いたがそこにいたのはクーだった。
「あぁ、本当に私の娘は美しいなぁ。
いいかい?絶対に久遠の傍を離れるんじゃないよ。
こんなに美しくしてしまって。ジュリは心配じゃないのか?」
「えっ?久遠さんも行くの?今日のパーティの人たちは久遠さんが知らないヒトばっかりよ?」
「何言ってるんだ。パーティなんだからこそエスコートが必要だろう?
じゃないと狼が群がってくるから...ね?
あぁ、私もそのパーティに行きたくなってきた。」
「狼って...。ふふふ。ダイジョーブよ?父さん。私なんか誰も気にも留めないわよ?」
(アンバーは普段着でいいって言ってたから誰かが目を留めるとしたら、
張り切りすぎてドレスアップして浮いちゃうからかしら?)
「はっ~。分かってないなぁ。だから心配なんだ。
やっぱり、俺も行こう...。」
そこへジュリがショールを持って戻ってきた。
「久遠にまかせておけば大丈夫よ。心配性なんだから...。
それより、アレは渡したの?
どうしても何かしたいって言うから譲ってあげたのよ。」
「あぁ、そうだった。忘れるところだったよ。」
クーがキョーコにイヤリングとバングルを差し出した。
イヤリングは縦に石をつなげたゆらゆらと揺れるものだった。
バングルには同じくらいの大きさの石がびっしりと埋め込まれている。
(キレイ...。でも、これって。無色透明な石って?
もしかしてもダイヤ...?本物よね?やっぱり。)
その値段を考えて躊躇していると
「つけてあげる」と言ってクーにつけられてしまった。
「うん、これで完璧だな。
いいかい?絶対に久遠の傍を離れるんじゃないよ?!
さぁ、行っておいで!私のプリンセス!」