「タキシードあるかな?」
久遠は長年勤めてくれている家政婦のサラに聞いた。
「お部屋にあるのは...。どうでしょうね。
13~14歳の時のですからサイズが合わないのではないかしら。
アルマンディのではだめなんですか?再契約なさったのでしょう?」
「あぁ、でもまだ契約書にサインしてない。事務所で書類を確認中。
だから『久遠』は着られないんだ。」
「では、新しいのをお作りになったら?」
「う~ん。明後日に間に合うかな?」
「また、急なことで...。
既製品じゃサイズは合わないでしょうし...。
あぁ、それでは旦那様のではいかがですか?」
見てきますといってサラは部屋を出て行った。
暫くして、タキシードとドレスシャツを持って帰ってきたサラの後ろには母さんもいた。
(うっ、マズイかもしれない...。)
「ク~オ~ン?タキシードってことはパーティかしらぁ?」
「まっ、まぁそんなもの...かな?」
視線を合わせずに答えるが、そんなことはお構いなしに続ける。
「明後日なら、私もヒマなのよね。
久しぶりに愛する息子とイチャイチャ、ラブラブしたいわぁ?
せっかくいい男になったんだから自慢したいしぃ!」
(イチャイチャ、ラブラブって...。いい歳して何言ってんですか?
母さんはいつも父さんとイチャイチャしてるじゃないですか!
それにアナタがパーティに行ったら大騒ぎになるでしょうが!!)
「えっと...。それは...。ちょっと...。」
「久遠は嫌なの?こんな年寄りのパートナーなんて嫌?
あぁ、息子に嫌われてどうやって生きていけばいいの?
私の寿命はあと...。」
「わかりました!わかりましたからっ...。」
こうなったジュリには誰も敵わない。
諦めて事情を説明すると、「私の娘を馬鹿にしてくれたわね!」と
怒りをあらわにし、明後日はここに連れていらっしゃいと言ってくれた。
ドレスも用意するわと言われ、自分で見立てるつもりだった久遠は
少しがっかりしたが、最高のメイクアップアーティストとスタイリストを手に入れられたので良しとすることにした。