キョーコにはゲストルームが用意されていた。

荷物は既に部屋に運ばれており、広いクロークに小さなかばんが一つ置いてあった。

普段なら、その部屋の豪華さに瞳を輝かせくまなく探検するところだが

今日は緊張と妙なハイテンションで疲れ切っていた。


(今日はもう寝よう...。

何も考えたくない...。)


かばんからパジャマを取り出し、バスルームへ向かう。

シャワーをあびると早々にベッドへもぐりこんだ。

ここ最近の自分の感情の変化についていけず、

なかなか寝付けないことが多かったのだが、

今日はクーとジュリとの楽しい時間のお陰で眠りにつくことができた。





ザバッ ジャバン



(なに?水音?)


浅い眠りを妨げられたキョーコは、ベッドから半身を起こし音のする窓の方を見た。

窓からは遠くにある緑しか見えない。

音は鳴りやんだかと思うと間隔を空けてまた ザバッ、ジャバンと聞こえてくる。

音の正体を確かめようとベッドから抜け出した。

窓に近づくとテラスがあった。

テラスは広く、長椅子にテーブル、パラソルがいくつか置いてある。

下におりられるのか端には階段もみえる。

テラスに出て手すりに近づくとすぐ下にはプールがあった。



満月がプールに光を落して、もう一つの月を作っていた。

音の正体を確かめるために水面をみつめる。

水面が揺れて光が滲んだ瞬間、


月がヒトの姿になった.....と思った。


そのヒトは月の光を集めて作られたような美しい金髪をしていた。

ゆっくりと水中から姿を現し、頭をふって髪についたしずくを振り払う。

飛び散ったしずくは月の光を受けてキラキラと瞬いたかと思うと水面へ還っていった。

まるで光の欠片がもといた月に還るように...。




(...妖精?)



ただただ呆気にとられ、ひたすらみつめていたキョーコには気付かないまま

そのヒトはプールからあがり、タオルを手にとると体を拭き始めた。

濡れて額についた髪をかきあげたとき、

月の光を受け翡翠色の瞳がきらめいた。

その瞬間、キョーコは階段を駆け下りていた。


「コーン!!!」


いきなり声をかけられ、虚を突かれたのか

勢いよく抱きついたキョーコを支えきれず、二人はそのまま後ろのプールへ落ちてしまった。

水中だということも構わず、何か話そうとするキョーコをすくいあげプールサイドに座らせると、

むせかえるキョーコの背中を大きな手で優しくさする。


「ゴホッ、コー...ゲッホ...コー...ゴホッ」

「落ち着いて。慌てないで大丈夫だから...」


暫くして呼吸が落ち着いてきたキョーコがおずおずと尋ねた。

「本当に、本当にコーンなの?」

「...うん...。久しぶりだね、キョーコちゃん。」

プールに入ったままだったのでキョーコよりも顔の位置が低いコーンは

下から覗き込み悪戯を見つかった少年のような笑顔で答えた。


「本当にコーンなんだね。...よかった。ちゃんと大人になれたんだね。」

よかったと繰り返しつぶやきながら、瞳を潤ませたキョーコを見てコーンは宥めるように背中をさする。

背中に感じた手のぬくもりが、コーンの存在を実感させたのか次第に声をあげてしゃくりあげて泣きはじめた。