ジムはやはり蒸し暑い。
本当にまだ夏のような気温、
異常気象の年だ。
今日は水を1リットル持参しているから
熱中症にはならないだろう。
準備運動をしてからまた
シャドーを1ラウンド。
それをA先生がじっと見ている。
正直、この時間が一番緊張する 笑
鬼門はやはりハイキック。
硬さが災いしてか
ハイキックをしようとした時の
体重移動がぎこちなくなり
バランスが崩れている。
錆びていてギギーと音がする
扉のようだ笑
蹴りに全体重を乗せるような
体ごとぶつかるような
そんな蹴り方をしたい。
サンドバックをハイキックで蹴り
ながら自分なりに研究しながら
蹴った。
護真舎の子達でも蹴りの上手い子達は
結構この種の蹴りは普通に蹴れている。
彼らの蹴りを頭の中で何度も
イメージをするが
イメージの動きを身体がうまく
なぞれないでいる。
そんな葛藤をしながら
フルスイングで蹴り続けた。
ミット打ちを含め
前回の練習の復習が一通り済むと
新たに数種類のローキックや膝蹴りの
練習に入った。
とにかく、ポイントを瞬間で判断する。
次に自分でやってみて、しっくり
こないものは原因を探りながら動く
ことを意識した。
キックボクシング的にメジャーな
動きでも投げや寝技の展開を考えると
躊躇しがちなものもあった。
ルールが違うのだから
それは仕方の無い事なのだと
頭が理解しても不思議と身体が使うことに
【危険】みたいなブレーキをかける。
そんな本能が発動することもあり
新鮮な驚きもあった。
別の技と
置き換えられないかスライドできないか
みたいな作業というのか
そんなこともした。
だからもう、頭も身体も経験も
フル稼働しまくりでもう必死。
最終的に気づいたのが
僕自身の傲慢さだった。
キックボクシングを知りたいなら
キックボクサーのように考え
キックボクサーのように振舞わくちゃ
ならなかった。
猿真似でも何でもぎこちなくなくても
この状況を思いっきり楽しまないと♫
そこで
A先生に尋ねてみた。
リングに上がって試合をする時は
どんな心境なんですか?
俺たちはね
リングに立ったら自分が
無敵のスーパーマン状態なんだよ。
過酷なトレーニングをこなして
誰よりも強いと確信している。
アドレナリンが噴出して痛みだって
感じない。
そんな人間同士が戦うんだ。
勝つには相手の身体をぶっ壊すか
相手の脳を揺らして意識を断たなきゃ
終わらない。
そうだろ?
スーパーマン同士が戦ってるんだ。
俺たちはいつでも壊し合いを
しているんだよ。
と言って笑った。
表情は穏やかだったけれど
やはり肉食獣に似たあの目
の光を放ち始めていた。
一瞬、ぞくりとした。
先生の
キックボクサーとしての本質
が初めて露わになった瞬間でも
あった。
楽しい。
そう思った。
先生が続けた。
俺たちプロのキックボクサーは
いかにして相手を壊すのかを徹底的に
研究している。
足なのか、腕なのか、関節なのか
死すら意識する時があるけれど
怖くは無い。
相手に勝ってリングを降りるだけ。
何か分かってきた気がした。
あれこれ考えるより
そういう気持ちで蹴って
そういう気持ちで打たなきゃダメだ。
先生はキックボクシングを
命の削り合いと捉えているんだから。
この日はマススパーリングは
せずに二時間の練習が終了した。
来週も同じ時間にまた来なさい。
と先生は言った。
繋がった。
危うく入口にすら入っていないことに
気づかずに終わるところだったな。
よし、来週こそ身も心も込めた猿真似
をしてやろう。
ありがとうございましたと頭を下げると
ダッシュでコンビニに駆け込み
水を買って一気に飲み干した。
それにしても、どんだけ暑いんだ。
続く