前回 からの続き
土曜日の昼下がりだったとはいえ、
多くの織姫は、本来の彦星が居ぬ間の逢瀬を楽しむために、
天の川の対岸に待機していた。
僕は、そのなかから、少しグラマラスで、
でも、口元から顎先にかけて非常にシャープな女性を
選んでインしてみた。
初夏だっただけに、薄手のブラウスは、
彼女の曲線美をできる限り写し取っていたのを、
いまでも覚えている。
でも、このパフォのハンドネームだけは、
いまでも思い出せない。
大概インしたパフォの名前は、
いつまでも記憶しているにもかかわらず…。
それだけ、咄嗟の衝動に駆られ、
条件反射的にマウスが動いて、
彼女のサムネイルをクリックしていたのだろう。
いまは、そのときの印象から、彼女を「なおき」と名づけたい。
もちろん最初は、お試しポイントでインしているので、
手持ちのポイントは5分少々しかない。
あとの祭りではあるが、ろくにプロフも読まず、
ましてやお顔も知らぬまま、
ただ、その魅力的な肉感に任せてインしてしまっただけに、
どんな話をすればよいのか、全く思いつきもしなかった。
「こんにちは。」
なおきからの一声が、文字として届いた。
映像と文字のコラボレーションに、
僕の鼓動は一瞬止まったような気がした。
「きんにちは こんにちは」
返事を返すのが、精一杯の作業だった。
ここまでで、もう1分経過してしまったと思う。
「ギャツビーです。はじめまして。」
「今日は、お休み?」
「はお はい。」
依然として落ち着きを取り戻せてはいないが、
定番の挨拶は、うまく切り抜けたみたいだ。
「ぼ、ぼく、これ初めてなんです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
それから、なおきは30代半ばの子持ちの主婦であることを明かした。
旦那さんは年下だが、最近気が合わないらしく、
前日の夜も、おそろしくケンカをしていたらしい…。
こちらからは、何も質問も、返信もできぬまま、
なおきは、パーソナリティをひたすら紹介してくれた。
「で、ここでは、みなさん、どういうこと、なさっているのですか?」
すると、なおきは、少し上向き加減に首をかしげ、
2~3秒――でも僕にとっては10秒以上の長さに感じた――考えながら、
何か思いついたように、こう答えた。
「おっぱい、見に来ているよ。」