近頃の我々、つまり私と

愛犬アーシー(大犬)の

散歩仲間である奥様と犬

(引退牧羊犬)の話です。

 

そんなわけで私に対しては

それなりに親愛の情を

示してくれるようになった

元・牧羊犬ちゃんですが

わが愛犬アーシーに対しては

今も少々そっけない。

 

まあ以前から

この牧羊犬ちゃんは

他の犬に対してそれほど

親し気な風情は見せない

犬だったのでございます。

 

『働く犬』の誇りと申しますか

「あのすみません、

非常に恐縮ではありますが

この私のことを

そこらの愛玩犬風情と

一緒にしないでくれます?」

みたいな・・・いや本当に。

 

散歩中に他の犬が

挨拶をして来たら

それはマナーとして

返事はするけれども

過度になれなれしくされたら

怖いうなり声をあげる、という。

 

そこにさらにこの犬の

『犬嫌い』を加速させる事件が

この冬に起こったのです。

 

よそ様の犬のことなので

あまり詳しくは述べませんが、

そもそもこの元・牧羊犬の

飼い主である奥様と私が

何故現在お散歩仲間なのかと

説明しますと(詳しくは

こちらの記事で)それは奥様が

冬に『事故で怪我をした』

からであるのですが、

この『事故』というのがですね。

 

その日、いつもの散歩道である

森の山道を歩いていた奥様と

元・牧羊犬ちゃんは、そこを突然

他の犬に襲われたのだそうです。

 

その犬というのが

体重60キロを超す超大型犬。

 

そんな犬が興奮して

先方の飼い主を振り切り

完全に制御を失った状態で

突進してきて牧羊犬ちゃんを

跳ね飛ばす勢いで噛み、

奥様は自分の犬を守ろうとして

自分も噛まれ、それを見た

牧羊犬ちゃんは牧羊犬ちゃんで

奥様を守ろうと大犬に対峙、

で、結果、牧羊犬ちゃんは

腸に穴が開いてしまう大怪我を

負ってしまったそうで・・・

 

運よく処置が上手くいって

牧羊犬ちゃんは

元気になったのですが、

以来、事件が起きた山道には

絶対に足を踏み入れたがらず、

そして他の犬、特に

自分より大きな犬が

前方から来ると即座に

警戒態勢に入るように

なってしまったのだそうです。

 

「特に暗い汚れたような

茶色の毛をした犬が駄目なの、

襲ってきた犬が

そういう毛色だったから。

だからアーシーの毛色も

この子はきっと大嫌いね」

 

「・・・いや、アーシーの

毛色は茶色というか

『濃い黄色』ですよ」

 

「遠目で見たら茶色だから。

それで図体の大きい犬も

嫌がるのよ、アーシーみたいに

馬鹿でかい犬っていうのかしら」

 

「いやいや、アーシーは体重

30キロ、体型もシュッと

むしろ小柄に見えますから」

 

「とにかく今のうちの子は

アーシーみたいな見た目の犬が

大嫌いなのよ、トラウマで」

 

「いやいやいや、その犬は

マスチフ系ですよね?

鼻が低くて

皺のある一見怖い顔の。

うちのアーシーのこの

長い鼻と愛嬌のある目を

ご覧くださいな?」

 

 

(注:奥様は毒舌の徒)

 

ただ真面目な話、牧羊犬ちゃんが

アーシーの外見を本当に

受け入れられないなら

集団散歩案は破棄しよう、と

最初に奥様と私は合意していた

くらいでございまして、

まあ結果としてそこは

何とかなったんですが。

 

アーシーと最初に対面した時の

牧羊犬ちゃんはかなり

不服そうではありましたが・・・

 

「今日の散歩にお客が

あるとは聞いていません

でしたけど?」みたいな。

 

ですから集団散歩とはいっても

犬二匹は完全別行動が基本。

 

アーシーが溝を歩くなら

牧羊犬ちゃんは藪の中を、

アーシーが泳ぐ時は

牧羊犬ちゃんは日光浴、

といった感じに。

 

賢い使役犬であるわたくしは

非常に残念ですが

アーシーさんごときの

遊び仲間にはなれませんよ!

という意思がそこには

明確に示されておりました。

 

矜持のある犬ってのもいいねえ・・・

 

ただそんな誇り高い

牧羊犬ちゃんがですね、

道の向こうから他の犬が来ると

ただそれだけで

本当に怯えてしまうんですよ。

 

足が止まり背中の毛が逆立ち

体が震え、前を向いたきり

動けなくなってしまう。

 

この子、以前は決して

こんな性格ではなかったんです!

 

昔も愛想はなかったけれども、

他の犬を見つけて尻尾を

振るような気質の

犬ではなかったけれども、

でもここまで他の犬の存在に

緊張してしまう臆病さはなかった。

 

奥様が背後から

「大丈夫、怖いことないわよ」

と言ってあげてやっと

牧羊犬ちゃんの金縛りが解ける。

 

「・・・ね、言ったでしょ、

これが可哀そうなのもあって

私は散歩道を変えていたの。

ここらへん、

犬連れの人が多いから」

 

「なるほど、確かに・・・

これじゃこの子は散歩を

楽しめないですものね」

 

しかしこの状況を打破したのが

我らがアーシーの

天性の能天気さでありました。

 

我々が山道を行く、

その向こうから

我々と面識のない

他の犬がやって来る。

 

すると牧羊犬ちゃんが

その気配を察知し

緊張する・・・よりも早く

アーシーがいつもの

『新顔さん大歓迎体勢』を取る。

 

つまり牧羊犬ちゃんが

全身から警戒警報を出す前に

アーシーが怒涛の勢いで

尻尾を振って向こうの犬に対し

「こんにちは私はアーシー!

私のことを好きに

なってくれていいのよ?

私の隣にいるのは牧羊犬ちゃん!

でも私のことを相手に

してくれるんでいいのよ?

後ろから人間たちも来ます!

でもまずは私と挨拶をして

遊んでくれるんでいいのよ?」

 

・・・アーシーのこの

お愛想全開熱烈友好態度を

初めて見た時、

牧羊犬ちゃんは

ただ茫然としておりました・・・

 

そんなこんながございまして、

現在牧羊犬ちゃんとアーシーは

一種の分業体制を確立したのか、

他の犬とすれ違う時は

アーシーが挨拶を担当し

牧羊犬ちゃんは私と奥様の

隣に位置して

警護係を務めています。

 

牧羊犬ちゃんはきっと

今もなおアーシーのことを

友達とは考えていないし

特に好きというわけでも

ないとは思うんですけど、

時々は2匹で肩を並べて

歩いている瞬間もあります。

 

そんな2匹と人間2人です。

 

 

犬の立場になってみたら

それは本当に怖く

そして悔しい

経験だったと思うんです

 

「自分が付いていながら

奥様にまで怪我を

させてしまった」的な・・・

 

牧羊犬ちゃんの当初の

私に対する威嚇ぶりも

当然といえば当然ですよね

 

それだけに最近の

牧羊犬ちゃんの私と

アーシーに対する態度には

嬉しいものがあります

 

私の次の目標は

牧羊犬ちゃんの

お腹を撫でることだぜ

 

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