そんなわけで退院後の私は

モルヒネの副作用で

経験した幻覚

友人との話のタネにして

喜んでいるわけですが、

病院での経験を総括して

「医療関係者の皆様には

本当にお世話になった。

特に担当医と担当看護師の

献身には頭が下がった」

みたいなことを言うと時々

「でもその献身ぶりももしや

君の幻覚かもしれないよね」

と反応されることがあり・・・

 

それはね、確かにその通り。

 

本当、どこからが

確固たる現実でどこからが

モルヒネ幻覚だったのか・・・

 

ともあれ術後に見たすべてが

私の幻である可能性は

ゼロではないのですが

まあそれはそれとして、

私の記憶する限り

病院の皆様はどなた様も

素晴らしきプロフェッショナル

だったのでございます。

 

患者の立場からすると

看護師さんというのは

もう看護師さんであるという

ただそれだけで

『救いの天使』に等しい

存在となるわけですが、

私が今回

身をもって実感したのは

ICU(集中治療室)の

看護師さんは

その中でも大天使、

一般病棟の看護師さんが

『優秀な工作員』だとすると

ICUのあの人たちは

『00(ダブルオー)要員』、

つまりジェームズ・ボンド。

 

 

 

 

笑顔の裏に隠された

『ただ者じゃない』感の

あの凄味のありがたさよ!

 

何か質問しても

打てば響くというか

当意即妙というか

「大丈夫、こっちは

すべてわかっています、

だからそっちは安心して

養生していなさい」みたいな

盤石の安定感

そこにはありました・・・!

 

これが一般病棟に移ると

そこらへんの真綿にくるまれた

緊迫感が少し薄まって

ナースコールで人を呼んでも

やって来るのは

看護師さんではなく

『病棟専任スタッフ』だったりして

「看護師に確認するから

ちょっと待っていてくださいねー、

あ、窓を開けるー?」みたいな。

 

でもあれはあれで

「ああ、私はもう一刻を争う

看護を必要とするほど

弱った患者じゃないんだ」

という安心感があったというか。

 

なんでもICUでは基本的に

患者一人に看護師さんが

一人つくのに対し、一般病棟では

3人の看護師さんが30人の患者を

受け持っているのだそうです。

 

(その代わりに看護以外の

患者相手の仕事を引き受ける

係の人が一般病棟には

かなりの数存在する感じ)

 

それはもうICUと一般病棟と

看護師さんの仕事として

どっちがより大変かと言われても

『両方大変』しか正答は

存在しないと私は思うのであります。

 

それにしても看護師さんは

皆様『技』を持っていらっしゃる・・・

 

なんでも『術後の患者さんに

看護師が何から何までしてあげて

患者はひたすら横になって休む』

というのは現代においては

化石化した過去の看護術らしく

「横になっている時間が

長引けば長引くほど

長期的に見て患者さんには

悪影響しかないのです!

脚の筋肉が衰えれば

転倒の危険性が増すし

心肺機能は弱るし

肺も炎症を起こしやすくなるし!」

 

・・・それでも今回の私は

手術翌日をベッドの上で

過ごすことを許されました・・・

 

翌々日からは

スパルタ看護でした・・・

 

しかもICU看護師の何が上手いって

そのスパルタ感を絶妙に

こちらに感じさせない点

「じゃあ頑張って少しだけ、

少しだけ座ってみましょう!」

 

「ハ、ハイ!」

 

「あ、上手に座れています!

よくできました!えらい!

顔色もいいし、大丈夫そうですね!」

 

「ハ、ハイ!」

 

「・・・私はこれから休憩なので

20分後に戻ってきますから」

 

「ハ、ハイ?」

 

「何かあったらナースコールを

押してくださいねー、

手の空いている

他の看護師が助けに

来ますからねー、じゃあ!」

 

それでもICUではベッドから

シャワー室兼トイレに移動する際

必ず看護師さんが一人隣に立って

歩行補助をしてくれたのですが、

一般病棟に移って最初の夜、

バスルームに行きたくて

ナースコールを押したら

やって来た看護師さんが

私に付随している機械だの

管だのの確認をするときっぱり

「はい、じゃあ後はご自分で

 

「・・・あの、私、ベッドの上に

起き上がるだけでも現在

かなりの時間を

要する有様なのですが」

 

「ウン、ゆっくり動くんで大丈夫よ。

万一トイレで動けなくなったら

個室内のナースコールを使ってね」

 

「・・・」

 

一般病棟に移るっていうのは

そういうことだから。じゃ、

トイレから戻ったらコールして」

 

私はその時思いました・・・

 

この病棟には鬼がいる、と・・・!

 

 

 

 

しかし人体の回復力というのは

目覚ましいものがありまして

そこから24時間もすると

『自力で一人でトイレ』が

不安なく出来る状態まで体が戻り、

機械や点滴液がつるされた

『ガラガラ(ガートル台と

いうのだそうです)』さばきも

段々堂に行ってきまして、

 

 

 

 

で、どうも私はこの

一般病棟での治癒速度が

当初見込みを

上回ったみたいなんです。

 

故に思いのほか早く

「この分だとそろそろ退院かも」

みたいな発言をお医者様から

いただくようになりまして。

 

で、ちょうどその頃

あの例の看護服を着た鬼が

私の部屋にやって来て

「ちょっと!あなた、

もしかしたら数日内に

退院できるかもって話、

もう耳にしている?」

 

「なんかそうらしいですね」

 

「本当に良かった!

お腹の傷もそうだけど、

筋力がちゃんと戻ったのが

本当に何よりなのよ!

あなた最初の夜から

ものすごく頑張ったものね!」

 

「・・・おかげさまで非常に

厳しくしていただきまして!」

 

「本当そうよ、私、

優しくなかったでしょ?

でも私があそこで

優しくしていたら、あなた

今もまだ弱っていたと思うわよ!

私は明日から2日休みだから

もしかしたらあなたの退院に

立ち会えないかもしれないわ、

でもあなた本当に頑張ったわ!

それだけ言いに来たの!

じゃあね、早く良くなってね!」

 

つまり彼女のあの態度は

彼女の『技術』だったわけですよ・・・!

 

(単なる生来のツンデレである

可能性も捨てきれませんが)

 

あとこれは私の勝手な

思い込みかもしれないんですが、

病棟内の関係者の意志の疎通が

すごくよかった印象があり、

一般病棟に移って最初の頃は

皆さんそーっと部屋に入って来て

いつの間にか私の血圧とか

確認しているような感じで

掃除の人も静かに静かに

存在感を消して作業していたのが、

ある時から看護師さんも

食事配膳の人も掃除係の人も

積極的に私に話しかけるようになり、

あれはきっと全体会議か何かで

「あの患者、回復してきたので

今後に向けもう少し声を出させよう。

色々な質問をして頭も使わせて

無理矢理元気にしよう」みたいな

指示が確認されたのではないかと。

 

プロの実力を目の当たりにした

入院生活でございました。

 

 

 

なお一般病棟で私は

ずっと個室住まいでした

 

・・・あれはアレかな、やっぱり

ICUから『幻覚症状アリ』みたいな

申し送りが一般病棟にあって、

それで大部屋入りを

見送られたのかな・・・?

 

最初の頃に放っておかれたのも

もしや『触らぬ神に祟りなし』的な・・・?

 

Norizoさん、もしかして

まだモルヒネ抜けて

いないのと違います、

被害妄想出ていますよ!

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