ショパン作曲

『雨だれの前奏曲』。

 

 

 

曲の初めから終わりまで

常に連打音が流れ

それが『雨だれ』と

呼ばれている所以の

有名曲でございます。

 

 

私がこの曲を発表会で

弾いたのは

確か中学生の時分。

 

その頃脳内に

描いていた情景としては:

 

冒頭の変ニ長調、

空は明るいが

小雨が降り続いている、

屋根から雨どいを伝って

水が落ち続けている、

その音をショパンの恋人

ジョルジュ・サンドが

長椅子に横になって聞いている

(膝元には当然例の仔犬がいる)。

 

 

嬰ハ短調で天気が崩れる、

空は暗くなり

遠くから雷が近づいてくる、

落雷、暗転、

暗がりの中でのジョルジュとの

口論、お互いへの不満、怒り、

無力感と悲しみ、しかしそれらは

情熱的な和解で結ばれる

(中学生が『情熱的な和解』の

詳細をどう理解していたかは

今となっては霧の中)。

 

再び変ニ長調、

雨が止み空は再び明るくなる、

軒先からはまだ

雨がしたたり落ちている、

ジョルジュ・サンドは

長椅子の上でうたた寝をしている。

 

こんな感じでございます。

 

 

皆様ご存じの通り

スコットランドは

非常に雨がちな土地、

雨だれとか本当に身近ですし

ここは昔の自分を懐かしんで

あの頃出そうとしていた音を

今も目指してみようじゃないか、

みたいな気持ちで練習を続け

音にそれなりにメリハリが

ついてきたところで夫(英国人)に

「よかったらちょっと横に座って

聞いてみてもらえないか。

人に聞いてもらうと

緊張感が出てまた違うからさ」

 

 

で、一曲通して弾いてみたところ。

 

 

最後の音が消えてしばらくしてから

夫は何事かを考える表情で

「曲名が『雨だれ』なんですよね。

もしかしてあの頭からずっと流れていた

『テ・テ・テ・テ・テ・テ・テ・・・』という

あの音が水を表しているんですか」

 

「・・・そうだよ!それが水音、

軒先から落ちる雨の音だよ!」

 

「わかりました。それでだんだん

雨の本格的な降りが

近づいてくるわけですね」

 

「そうだ!おいおい、何だ、

通じているじゃないか!

そうか、伝わったか、

それは嬉しいな!」

 

だってこれ、音楽を通しての

イメージの共有が

出来ているじゃないですか!

 

 

すごいぞ、私のピアノも

実は捨てたもんじゃないな!

・・・と心の中でこっそりと

自画自賛をしておりましたら

真面目な顔で夫が続けて

「わかります、そして雨とともに

水も近づいてくるわけですよね。

ゆっくりと、しかし確実に

寄せてくる水、そしてその水は

災いをもたらす水なんですよね」

 

「・・・ん?災い?ああ、あの

中盤のff(フォルテシモ)のところ?」

 

「たぶんそこです、ドーン!って

すごく大きい怖い音がする部分、

あそこで水が氾濫したでしょ?」

 

「・・・あそこは氾濫・・・というより

落雷・・・のイメージなんだが」

 

「ああ、落雷。なるほど。

たぶん雷の落ちた先が指令室で

それでダムが決壊したんですね」

 

「ダム?決壊?」

 

「少なくとも2回大事故がありました」

 

「大事故?」

 

「自然災害の前に人は無力、

という悲劇がよく

表現されていたと思います」

 

「いや、待て待て待て、

なんかこう聞くと

大災害みたいじゃないか」

 

「大災害ですよ。

甚大な被害が生じていますね。

その恐怖の到来を冒頭から

静かに示唆している・・・

これ、ホラー映画にも

使えそうな曲ですよね」

 

「ホラー?」

 

「ヒッチコックの映画とか」

 

 

 

 

「待て、君はホラーと

サスペンスを混同している。

それにあれだ、ホラーにしては

最終部分はまた転調して

晴れやかな感じになったろう、

『そしてその後、皆はずっと

幸せに暮らしました』みたいな」

 

「それは宗教的な救い、ですよね」

 

「・・・ああ、水の下にも

都はござりますぞ、みたいな?

そうか・・・彼岸の幸せか・・・」

 

 

 

 

「僕は聴いていて途中から

本当に怖かったです。

容赦なく忍び寄る災厄、

大自然の持つ破壊力の恐怖、

対する人のなすすべのなさ、

そうしたものが大変上手に

演奏に表れていました。

君、ピアノ、上達しましたね」

 

・・・いや、ちょっと待て、

その解釈はちょっと違う。

 

 

混乱の中、もう1回続く。

 

 

本日も『雪と犬』写真

お楽しみいただければ幸いです

 

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