ちょっと古い話で恐縮なんですが

事の始まりは2018年4月。

 

ある日わが夫(英国人)が

「昨日、ロンドンの南東部で

お年寄りの家に

二人組の強盗が

押し込んだそうです」

 

「世間は物騒だな、

我々も気を付けないとな」

 

「ところがこの

78歳の高齢男性は

強盗を撃退したそうです」

 

「ご長寿壮健何よりです」

 

「78歳氏は台所包丁を手に

二人組に立ち向かったそうですが、

結果、一人は逃走、

もう一人はお年寄りに

刺し殺されてしまったそうです」

 

「・・・まあ・・・それはでも

自業自得・・・だよなあ・・・」

 

「ですよね。でも警察は

このお年寄りを

殺人容疑で逮捕したそうですよ」

 

「おいそりゃあんまりだろ!

英国の社会規範もよくわからんな!」

 

まあしかしこのご高齢者は

後日釈放され不起訴も決定、

だって強盗は武器を持っていた上に

家にはご高齢男性の

同じくご高齢の奥様もいて

つまり男性は自分だけでなく

奥様の身も守ろうとしたわけで

すなわちこれは正当防衛の

二乗、いや、三乗のような状況、

「これを罪としてしまったら

強盗にあったら

無条件に被害を受け入れ

最悪の場合家族もろとも惨殺されろ、

みたいな話だったわけだからな。

私の常識が英国でも

通用するようで何よりだよ」

 

老夫婦も愛しの我が家に

無事戻れてこれにて一件落着、

めでたしめでたしか、と

思ったら、しかしさにあらず。

 

事件が起こったのは

4月4日未明だったのですが

その3日後、つまり4月7日から

押し込み強盗犯の親族友人が

強盗犯の遺体が発見された場所、

つまり被害者老夫婦の家の

周辺にある民家の前の壁に

その死を悼むカードだの花束だのを

飾り付けるようになりまして。

 

いやいやそれは

適切な行為じゃないだろ、と

地域住民がそれらのカードや花を

撤去すると、それに負けじと

翌日にはさらに多くの

カードと花が供えられ

事態はいたちごっこに。

 

「正直わけがわからない。

いや、家族友人の気持ちは

わからんでもないけど、

花を供えたいなら

お墓に供えればいいじゃないか」

 

この刺殺事件が起きる前から

この地域では強盗事件が

多発していたそうで

見ようによっては

このカードと花の陳列も

地域住民への恐喝というか威嚇

(俺たちの仲間によくも、みたいな)

のように取れなくもないわけで。

 

ところで今回刺殺された

強盗28歳君は薬物中毒者で

詐欺・強盗の常習犯、

私の弟がこんな真似をしたら

私はまず最初に

被害者夫婦と近所の皆様に

お詫びをすること間違いなし、

現場に花は飾らない、というか

飾れないですよ、心情的に。

 

まあ個人の犯罪にその親類縁者が

どこまで責任を負うべきか、というのは

別の話ではあるんですけど。

 

で、こちらの高齢者ご夫妻、

強盗関係者から逆恨みされる

可能性が高いとして事件以降

家に戻れていらっしゃらないそうです。

 

実際脅迫状的なものも

ご夫婦宛に送りつけられているそうで

亡くなった方を悪く言いたくはないけれど

類は友を呼ぶというか

強盗君の縁者知人も

いったいどういう感覚をしていたら

そんなことができるのか。

 

強盗28歳君のご家族は

父親とおじ5人、いとこ数名にも

犯罪・収監歴があるそうで

・・・ああ・・・つまりそういう感覚・・・?

 

でもさあ、誰かを恨みたいなら

それは強盗被害者である

高齢男性ではなく

一緒に押し込み強盗を働きながら

刺された仲間を見捨てて逃げた

もう一人の強盗君であるべきでない?

 

わからないなあ!

 

さて、そんなこんなで

この件に関し本年5月、

つまり今月に審問が開かれて

強盗君は合法的に刺殺された、

つまり78歳(当時)高齢男性に

違法性はないことが

確認されたのですが

この審問の場で強盗君の

お姉さんだか

妹さんだかがおっしゃったのが

「(強盗君は)暴力的な

人間ではありませんでした」

 

・・・深夜に見知らぬ人の家に

スクリュードライバー片手に押し入って

「邪魔すんな、さもないと刺すぞ」

とか言っちゃう28歳男性が

暴力的ではないって理屈、

皆様にはわかります?

 

まあそういうことを言う相手に

高齢者を選ぶ時点で

正しい形容詞は『暴力的』より

『卑怯』あるいは『卑劣』っていうなら

私もわからないではないんですけど・・・

 

ちなみに高齢者男性が自衛のために

台所包丁を手にしたのを見て

刺殺された強盗君の犯罪者仲間君は

ドアから飛ぶように逃げ出したのに対し

強盗28歳君は高齢者男性に

「私の家から出ていけ」

「私の包丁は君の

(スクリュードライバー)より

大きいぞ」と言われたにも関わらず

開いたドアの前に向かわず

高齢者男性のほうに向かってきて

結果、刺されてしまったのですが

この点に関して

28歳君の遺されたお母様曰く

「何故こちらの紳士は

普通の人がするように

尻込みして後じさって

くれなかったんでしょう?」

 

お母様、それをおっしゃるなら

何故おたくの息子さんは

普通の人がするように

そこでドアに向かって

駆け出さなかったんでしょう、

というか私の考える『普通の人』は

まず高齢者住宅に強盗には

押し入らないのでございますが。

 

なお検死を担当した

病理学者さん曰く

強盗28歳君の遺体には

コカインとヘロインを

使用していた痕跡があるとのことで

「事件当時、これらの薬物の

影響下にあったと思われる」

 

あ、ああ・・・

 

それは・・・

 

そうですか・・・

 

ともあれこのたび無実というか

行為の合法性が確認された

この高齢者男性ですが

彼とその奥様は今後も

事件のあった家に

戻る予定はないようです。

 

証人保護の観点から

現在は『新しい名前と身分』を

手にして暮らしていらっしゃるそうで

・・・何故『悪いことをしていない』と

司法的に確認された人たちが

そんな目にあわないといけないのか。

 

『逃げるが勝ち』なのは

わかるんですけど、でも

やっぱりわからんよ!

わかりたくないよ!

と思ってしまう私は

まだ青いんですかね。

 

色々よくわからない

最近の英国社会面記事でした。

 

 

ご高齢者夫妻は現在

新しい名前と身分で暮らしている、と

報じつつ、ご夫妻の『夫』、つまり

強盗君を刺殺した殿方の写真を

各紙が堂々と掲載している点も

私にはよくわからず、いや、

そういうことなら身分判明に

つながりかねない画像は

ネットや報道から

排除すべきではないんすか?

 

しかし本当、事件現場への

花とカードの陳列は

これ、自分の住んでいる地域で

こんなことが起きたら、と想像すると

かなり怖い事態ですよね

 

件のご高齢者夫妻が心穏やかに

余生を過ごせることを祈っての

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