さて友人のお子様が入院する際に

小児病棟で役立たずの極みをさらした

世界デクノボウ選手権ユーラシア大陸代表の

スコットランドのひきこもりNorizoさんですが

自責の念は日々強まるばかりでまったくもう。

 

 

いや本当、私は基本的に暇さえあれば

冗談口を叩いているのが気楽な性質なんですけど、

そういう軽口が明らかに不謹慎な場合、

もう私という人間の存在は

どれだけ無意味なものであるのか、という。

 

世の中には絶対にふざけてはいけない場所が

厳格に存在するよなあ、と

入院病室で患者である赤ちゃんを抱きしめる

友人夫妻をただ横から呆然と眺めていた私でしたが

ふと病室の外に目をやるとそこに何やら変なものが。

 

・・・何だろう、あの原色は、みたいな。

 

思わず眉間にしわを寄せて

その奇妙な物体を凝視していたところ

友人夫妻のご夫君のほうが私の様子に気づき

「Norizo、どうしたのさっきから変な顔して」

 

「いや、あれ、何だろう。さっきから

廊下の向こう側の病室を

出たり入ったりしている人がいるんだけど

服装が明らかに尋常じゃないんだよね」

 

私の言葉にご夫君も外を眺め

「・・・何だろう・・・でもこの病棟、

怪しい人は入れないように

入り口に鍵がかかっているから

たぶん怪しい人じゃないんだろうけど・・・」

 

いや、でも赤白青黄の原色4色が

頭のてっぺんからつま先まで配色された

ぶかぶかの服に帽子に黒色のドタ靴、

異様なまでに不格好な黒カバン、

ああいう人を怪しいと言わずして

我々はどんな人物を怪しいと形容できるのか、と

悩んでいたところにその相手が

くるりと振り返って私と目が合い・・・

 

あ、この人、『ピエロ』だ!

 

 

 

英語だとクラウン(Clown)!

 

・・・いやしかし病院にピエロ・・・?

 

ますます訳が分からなくなる私に

ピエロは病室のドアについた

窓の向こうからにっこりと笑うと

手で『部屋に入っていいか』と訊ねてきて

「・・・どう応えたらいいものだと思う?」

 

決断を下しかねる私に代わって

友人夫妻ご夫君が

「あ、どうぞどうぞ、入ってください

・・・で、あなたはですか」

 

ひょこひょこと病室に入ってきた道化師は

改めてもう一度微笑むと高めの裏声で

「いい子にしている子どもたちに

風船人形をプレゼントしています。

あら、このお部屋にも

ものすごくカワイイ素敵な子が!

このゴージャスないい子に

風船を差し上げても構いませんか?」

 

そう言って彼女は黒カバンの中から

ピンクの風船を取り出し

患者である友人夫妻の子供に

何やら話しかけながら

するすると大きな猫を形作り。

 

小児病棟でのボランティアとしての

バルーン・パフォーマンス。

 

 

 

以前の私ならそれを『陳腐な偽善の極み』と

鼻で笑っていたかもしれません。

 

しかしあの日の経験に基づいて

今の私は断言したい、

あれは崇高な意思に基づいた

文句なく美しい行為でございます!

 

病院に入院している子供たちは

それぞれが病苦を抱え深く傷ついている。

 

そんな子供たちを見守る家族も

不安と悲しみに押しつぶされそうになっている。

 

それでもそんな負の感情をなんとか隠そうと

大人も子供も必死になっているところに

ケッタイな格好をした道化がやってきて

子供にこれでもかの褒め言葉を送りながら

(『まあ可愛い!なんて偉い!頑張り屋さん!

いい子ね!天使みたい!世界で一番よ!』)

キュイキュイと器用に風船で人形を作って

「はい、じゃあこれ、道化からあなたに!」

 

あれはね、子供も嬉しいですけどね、

それ以上に嬉しがる子供を見て

周りの大人がどれだけ救われるか、というね。

 

ピエロ独特のぴょこぴょこした動きで

病室から出て行こうとする彼女を引き留め

少し話を聞いたところ、彼女は週に三回こうやって

『道化師の格好をして小児病棟で風船人形を

作って回る』ことをしているのだそうです。

 

時間と風船に余裕がある時は

『大人病棟』の入院患者のところにも

登場しているのだそうです。

 

「驚くかもしれないけどね、この格好で

風船で犬とか鳥とか作ってプレゼントすると

大人の入院患者も案外喜んでくれるのよ」

 

「そりゃ喜びますよ!私は数年前に

自分が入院していたんですけど、その時

あなたのような道化師が

お見舞いに来てくれたらなあ!

あなたのしていることは立派です、偉大です、

私はすっかり感銘を受けました!」

 

友人夫妻の子供はこの日1日で

すっかり人間不信というか

『看護師の格好』をした人のことを

怖がるようになっていて

(色々『痛い目』にあってしまったため)、

病室でも担当の看護師さんが来るたび

不安そうに怯えてすくんでいたのが

風船猫を貰った今はニコニコして

明らかに肩の力が抜けている様子。

 

「この病室に入って来た人に対し

この子がこんなに安心しているのは初めてです。

この子は今、看護師さんの格好をしている人は

何か痛いことをしてくるんだ、と

思い込んでしまっていて、さっきからずっと

誰かが部屋に入って来るたび

ものすごく怖がっていたんですけど・・・」

 

友人夫妻のご細君の言葉に

道化師はわが意を得たりとばかりに深く頷くと

「そうなんです、私がこういうことをしている

理由の一つはそれなんです!

この入院病棟にいる人は怖い人ばかりじゃない、

子供が見慣れない変な格好をして

奇妙なことをしてくるような人ばかりじゃない、

そういうことを子供達に伝えてあげたいんです!」

 

この発言の醍醐味:発言者自身が

社会一般の基準からすると

明らかに間違いなく『変な格好』をしていて

子供に対し『奇妙なことをしてくる』ことを

その使命と心得ている点

 

道化師が病室から出て行ったあと、

友人夫妻のご夫君が低い声で

「彼女のさっきの発言が

ものすごく愉快だったのは僕だけ・・・?」

 

子どもたちを笑顔にし、大人たちをも微笑ませる、

彼女は偉大なる道化であると私は思うのであります。

 

 

かの道化の崇高なる姿勢に打たれたのは

私だけではなく友人夫妻のご夫君もで

現在我々は半分冗談・半分本気で

『バルーン・アート』教室に

参加することを考えております

 

技を身に着けた後は勿論

ボランティア道化師として働こう、と

 

・・・私はとうとう人生における

『正しき道』の啓示を受けたのかもしれない

 

拳を握りしめる私に

Norizoさん、アナタ変な目つきしていますよ

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