私の通った小学校は年に1度

『自転車教室』なるものを開催していて

当日は本職のおまわりさんが学校に来て

(あまりの凛々しさに生徒一同大興奮)

(三つ子の魂百までか、私は今でも

制服姿のおまわりさんにはちょっと弱い)

(弱いって何が弱いんだ何が)(閑話休題)

安全に自転車を使用するうえでの

注意点を教えてくださったものでございます。

 

自転車では必ず道の左側を走る、

信号は絶対に守る、などの基本の他、

外が暗くなったらなるべく自転車には乗らない、

雨の日には自転車には乗らない、悪路は避ける、

自転車に乗ったらスピードを出しすぎない、など

命と安全を守るために大事なことを

今思えばよくあれほど子供にもわかりやすく

噛み砕いて説明してくださったものだと。

 

おかげさまで私は今でも自転車では

必ず道の左側を走り信号も守り

スピードを出しすぎないよう

気をつけてはいるのですが、

『暗くなったらなるべく自転車に乗らない』はね、

ほら、スコットランドって気が付くと

すぐに外が暗くなっちゃうし、特に秋冬は・・・

あと『雨の日には自転車に乗らない』もね、

そこを厳密に守ろうとすると正直

自転車に乗れる日が存在しなくなっちゃうから・・・

 

ともあれ。

 

そんな清く正しい自転車使用法を守る

私のことを嘲笑うかのようなスポーツ競技が

ここ英国には存在するのです。

 

競技内容:

真冬のある日、午前11時に競技スタート。

山奥の登山道(未舗装。大悪路)を

ひたすら自転車で走る。競技時間は24時間、

翌日の午前11時がゴールタイム。

時間内にルートを何周できたかで勝敗を争う。

真冬なので当然道には雪が積もっている。

深夜はもちろん気温は氷点下、

休憩は各自の判断で取っていく。

雪がとけたり再凍結したりに合わせ自転車の

タイヤを変えていくのがレースの醍醐味。

 

読んでいてまったく意味が

わからねえと思うんだが

書いている俺だって正直

全然意味がわからねえんだぜ・・・!

 

 

この常識人には理解が及ばない

変態レベルにおいては最高峰であろう

狂乱狂気のレースにわが夫(英国人)の

弟その2、すなわちわが義弟その2(色男)が

数年前に参加しましてね・・・

 

応援に出かけた夫が帰ってきて曰く

「レース開始の時点ですでに全ルートが

雪で覆われ一部は凍結した状態でした。

またその道というのが山あり谷ありで

ある地点では自転車ごとダイブしないと

レース続行が不可能だったりもしたんですけど、

当然そこにも雪は積もっていて隣は崖で

太陽の出ている日中はともかく、あれ、

夜になったらスリルがありすぎると思うんですよね」

 

 

「それってつまり危険ってことだろ」

 

「危険ということを考えるならば

レースの存在自体が危険ともいえますよね」

 

 

なお夫の実行した『応援』は

レース開始前に義弟の肩を叩き

「頑張れよ、怪我はなるべくしないようにな!」

と言い、後は適当にそこらへんの山の中を散策し、

日が暮れたら近くのホテルに戻り

一人で美味しいご飯を食べお風呂に入り

朝になったらまた一人で豪勢な朝食を食べ

厨房にお願いしてサンドイッチを包んでもらって

それを義弟のところに差し入れし、また適当に

そこらを観光して11時になったら

ゴールラインに立って義弟に拍手をした、

というものだそうで、それに対して

「他の選手は皆大所帯でやって来ていて、

選手がルートを1週走って戻ってくると

自転車整備係みたいな人がタイヤを取り換え

その間マッサージ係みたいな人が選手の足を揉んで

そこにお食事担当者が軽食を出して、みたいに

至れり尽くせりの競技環境を整えていたんです。

それに比べると僕の弟は自転車の調整も

食事の準備も体のメンテナンスも自分でやっていて

ちょっと他の選手と差がありすぎましたね」

 

「その差を埋めてやろうとは

君は思わなかったのか、兄として」

 

「だから朝にサンドイッチを

差し入れしたんじゃないですか。

ホットサンドで温かくて

義弟はものすごく喜んでいましたよ」

 

非協力的な身内の存在にもかかわらず

義弟はなかなか見事な結果を出したらしいのですが

後日レース当日の写真を見せてもらったら

義弟はその頃見事な顎鬚を生やしていたのが

レース前の彼が『こんにちは、僕はサンタクロース、

これから君の家の煙突を目指していくよ!』みたいな

快活かつ力強い微笑を浮かべているのに対し

レース後の彼は目はうつろで顎鬚も服も土と雪と

何かわけのわからないものでドロドロになっていて

『今、トナカイを全部殺ってきた』みたいな有様になっていて

・・・でも本人はすごく楽しかったらしいです。

 

寒さに震えながらかじかむ指で深夜に

自転車のタイヤを一人で取り換えたのも

ハンドルさばきを誤って凍結路を

真っ逆さまに滑り落ち九死に一生を得たのも

レースの合間に携帯コンロに火をおこし

お湯を作って粉末スープを飲んだのも。

 

 

・・・おまわりさん!この人です!

 

義理の姉として義弟その2には

確固たる親愛の情を抱く私ではありますが

やはり我々の間には埋めることが不可能な

広く深い相互理解の溝がある模様です。

 

人は人、我は我、されど仲良し。

 

皆様も冬の自転車使用にはお気を付けください。

 

 

この狂気の自転車レースには

選手2名のペアで参加することも可能だそうで

義弟の話によると

齢10歳くらいの少年とその父親が

コンビを組んでいたチームもあったそうで

「それは児童虐待と違うのか」

 

「何を言っているんですか、

子供、ものすごく楽しそうでしたよ!

大人一人で参加するか

他の大人とペアを組んだ方が

精神的にも肉体的にも絶対に楽なのに

そこであえて息子をパートナーに選ぶ、

あんなお父さんはなかなかいないですよ!」

 

それも英才教育の一種なのかしら・・・

 

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