英国の選挙の話ですとか
獣医さんに猫を連れて行った話ですとか
最近家で雨漏りがする話ですとか
色々書きたいことはあるんですけど
まず、この件の報告を済ませんと!と
私はやっと腹をくくりましたよ

鵞鳥物語、再開します

物語はここから一気に悲劇化します

どうかよろしくお願いします



さて。

そんなわけで我が家の
ガチョウ姉妹と婿殿は
紆余曲折はあったものの
秋風が野を渡るころには
すっかり仲良し三人組となりました。

食事の時に婿殿が
妹姫をつつき出そうとする癖は
結局直らなかったのですが、
それはそのたびに姉姫が婿殿を牽制、
とりあえず3羽揃っての食事風景は
それなりに平和でのどかなものに。

三人組の行動が時々1対2の
別行動になることもあったのですが、
これは主に姉姫が持ち前の
好奇心というか根性によって
『え、そこ、すり抜けちゃいます?』な
柵やら壁の隙間やらを突破してしまい
あとの2羽がついていくことができないで
結果的に姉姫が単独行で新天地を
目指してしまう形になってしまったもので、
また逆にそんな姉姫のお尻を婿殿は
必死に追いかけたような場合、
根がインドア派の妹姫にはそこまでの
冒険に付き合う気はさらさらなく
ひとりで2羽の帰りを待って日向ぼっこをし、
まあ一時期のような孤独の影は
そこにはまったく見えなかったのでした。

お散歩


3羽揃っての行水。

お風呂


散歩。

お散歩


種牡羊(通称:おっさん)の
餌を狙っての波状攻撃。

カツアゲ


夕方、私と夫(英国人)の
後をついてのガチョウ足行進。

「うーむ、こうなると本当に
ガチョウというのも可愛いものだなあ」

「そうでしょう。あとはこの子たちが
うまくそれぞれを伴侶として
認め合ってくれれば完璧です」

「しかしそれ、本当に大丈夫なのか、
婿殿1羽に対し嫁御が2羽って。
私は男を巡っての姉妹喧嘩とか見たくないぞ」

「今の時点でこれだけお互いに
懐き合っていれば、
そこは問題ないかと思います。
ただ、うちの姫君たちはまだ年若いので、
この冬に婿殿を婿として認めても、
タマゴを産むのは
再来年の話になるかもしれません」

まあそこは我々が
気長に待てばいいだけの話ですから。

夫曰く、ガチョウのお見合いは
夏から秋にかけて実施するのが理想で、
その後しばらく(秋から冬にかけて)
『あとは若い方同士で』と放っておくと
うまくするとクリスマスごろに
相思相愛の仲になるものだそうで。

秋が過ぎ、12月がやって来て、
相変わらずガチョウたちは仲良し三人組行動。

そんなある日、忘れもしない12月8日。

庭の向こうで変な気配がしたので覗いてみると
姉姫と婿殿がお互いの首を絡め合わせ
くちばしをそれぞれの首の付け根に押し当て
奇妙なステップを踏みつつ、くるくると
1つコマのように回転していました
(絡み合った首がコマの軸のような感じで)。

2羽とも鳴き声一つ上げず無言。

その横で妹姫はバツが悪そうに
あらぬ方向を見て2羽に気付かぬふり。

「・・・夫よ、これはもしかして
求愛のダンスの一種なのだろうか」

「どうでしょう、ですがクリスマスは
もうすぐですからね、これが何かの
サインであってもおかしくありません!」

翌日から3羽はまた
何事もなかったかのように
団体行動を再開しまして
やってきました12月23日。

窓から外を眺めていた私と夫の眼前で
妹姫のお尻のふわふわ羽毛に
敢然とくちばしを突っ込む婿殿。

あなや何事、と小走りに逃げる妹姫。

婿殿、妹姫のお尻からくちばしを離さず
同じく小刻みな足取りで妹姫を追走。

(中世風ドレスを着たお姫様の
パニエに思い切り顔を突っ込んだ
馬鹿王子の図をご想像ください)

予想外の事態に慌てつつも
必死の形相でさらに逃げ足を速め
ぱたぱたと庭を横切る妹姫。

そのお尻に食らいつき
どたどたと後を追う婿殿。

もつれた毛玉のようになった2羽は
そのままの勢いで庭の向こうの
藪に突っ込んでいきました。

なお、今回は姉姫の方が
2羽の不審な行動を見て見ぬふり。

「・・・夫よ、あれは求愛行動の
第二段階か何かだろうか」

「婿殿の奮闘、何よりです。
クリスマスはもう明後日ですからね」

夫よ、君のスケジュール管理能力は
素晴らしいものだとは思うけれども
しかしこういうことがそこまできっちり
日程表通りに進むものかね?
と思っていた私はまだまだ甘かったです。

クリスマス・イブの日にそれは起きました。

夕方、いつもの通り3羽を寝所
(古いニワトリ小屋)にご案内したところ、
婿殿、姉姫に対し突然の大攻撃を開始。

その無慈悲さたるや、姉姫を
寝所の隅に追い詰めた上で
その背中に飛び乗り
己の体重で相手を押し潰したうえで
頭から首から肩から背中から
もうとにかく自分のくちばしが届く範囲の
すべてをつつき、むしり、えぐる勢い。

寝所にこだまする姉姫の悲鳴、
舞い散る羽毛、藁(わら)、埃。

婿殿がここまでの攻撃性を
剥き出しにしたことはこれまでなく。

だいたい婿殿が意地悪を仕掛ける相手は
いつも姉姫ではなく妹姫のほうだったはず。

とにかく事態の尋常でない深刻さを
把握したわが夫が身を挺して
両者の間に割って入り姉姫を救出
・・・しようとするも恐怖に腰が抜けたのか
それとも婿殿に怪我をさせられたのか
姉姫、その場から動くことが出来ず。

そんな弱った姉姫を婿殿、再攻撃。

夫は慌てて姉姫を抱え寝所から脱出。

夫の腕の中でぶるぶると震える姉姫。

結局姉姫はこの日、夫が臨時設営した
簡易寝所(古い納屋の奥の一室)で
一人寝、ということになりました。

「だってあのまま姉姫をあそこに
残しておくわけにはいきませんでしたよ。
婿殿は本気で姉姫を攻撃していました」

「しかし何故だ?婿殿はこれまで
妹姫に対しては時折
不親切な振舞いを見せてきたが
姉姫に対してはそんな真似を
してこなかっただろう、基本的に。
つがいの関係になるにしても
まずは姉姫を相手に、それから妹姫と、
というのが婿殿の考え方だと
私はこれまで予想していたのだがなあ。
それともガチョウというのは
一線を越えた関係を異性間で結ぶとき
そういう攻撃的な態度に出るものなのかなあ」

「妻ちゃん、これはもしかすると
そういう話ではないのかもしれません」

「じゃあどういう話なのかね」

ため息をついた夫は深刻な声音で
「姉姫は雄かもしれません」

続く。


・・・うん、続くよ

ああ、でもこの続きを
私は本気で書きたくないです
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