そんなわけで
昨日までの記事をご覧ください)
わが家の年頃ガチョウ姫2羽に
我々はお婿さんを
迎えることにしたのであった!

キュートでごめん


なお、この場合の『お婿さん』は
単数形で複数形ではありません。

ええ、姫2羽に対し旦那様は1羽の
省エネ作戦というか
夕霧の大将戦略というかを目指す方針で。

「雄を2羽見繕ってもいいんですけど、
雄同士で縄張り争いを
始めてしまっても困りますし、
雄を2羽連れてきた挙句
うちのお姫様2羽が2羽とも
雄のうち片方だけを選んでしまったら
残された1羽が可哀そうじゃないですか」
というのがわが夫(英国人)の考え方。

それは・・・デリカシー・・・なのか・・・?

ともあれ、車を飛ばして我々が向かったのは
スコットランド中部にある某家禽専門農場。

丘に囲まれた広大な敷地の中央に
大きな池があり、その周囲に群れる
ニワトリ、アヒル、ガチョウ、カモ。

鳥好き狂乱必至の楽園ですが
羽毛アレルギーの方には悪夢の地かと。

「すみませーん、電話で連絡をしたものですが、
ガチョウの雄を1羽お願いしてあるのですが」

「はいはい、聞いていますよ、
好きな雄をお選びください」

ありがとうございます・・・って、お兄さん、
おたくのガチョウ、全員が全員、
池の向こうに陣取ってどの子が雄やら雌やら
素人である私にはまったくわからないのですが。

素人でなくともこの遠目で選別は無理、と
お兄さんがガチョウたちを100羽ほど
納屋に誘導し戸を閉めたうえで
「えーとね、あの眼尻に
汚れがついている子、あれは雄です。
向こうの胸に汚れがついている子も雄です。
あの隅の台に飛び乗っているのも雄です」

「ガチョウは性別の判定が
難しい鳥だと聞いていますが、
どうやって雄雌の違いが判るのですか」

「えーと・・・慣れもあるんですけど・・・
雄はまず、体が大きいですよね。
雌に比べて首も長いです。
あとは態度ですね、好戦的なのは雄です」

また、羊と同じく、雄は足の間のもこもこ感が
雌に比べて少々目立つ感じなのだそうで。

しかし我が家のガチョウ姫も短期間で
ずいぶん身体が大きくなったものですが
この農場のガチョウは
さらにもうひとまわり上のサイズで。

というのも彼らは実は生まれは前年、
すでに1度冬を越して
恋の季節も経験している
堂々の大人の集団なのです。

「さて、で、夫よ、どの子にするかね」

「うーん、それはなるべく『いい殿御』を
選びたいところではあるんですけど、
どのガチョウもこのガチョウもはっきり言うと
みんな同じに見えちゃうんですよね」

ええ、そうなんです。

どの雄も皆、白く大きく首が長く好戦的。

「だいたいガチョウの世界における
『いい殿御』の定義とは何なんだ?」

「いざという時に伴侶を守れる
攻撃力の高さでしょうね、
そしてガチョウの強さは
体格に比例すると思われます」

「つまり体の大きな男が有利という話だな。
しかしこの子たちは皆どれも大柄だぞ」

ここで農場のお兄さんが笑顔で
「ええ、今ここにいる雄たちはどれも
体格的には優れている個体ばかりですね」

「うーむ・・・よし、こうなったら顔で選ぼう。
うちの姫君たちはまだ年若いから
『男の価値は顔ではない』
という真理が理解できんだろう。
お兄さん、この雄たちのうち
一番ハンサムなのはどの子ですか」

「それは・・・難しい質問ですね」

「妻ちゃん、見た目も大事ですけど
やはり内面というものも重要ですよ」

「それはもうその通り、わが家の箱入り娘を
ぐいぐい引っ張るくらいの気概のある雄を
私としては希望したい、が、女性に対し
暴力的な傾向のあるクズは御免だ。
かといって気は優しいが弱虫な男では
うちの姫君姉妹の相手にはなるまい。
長年連れ添うことを考えると
ある程度の知性も欲しいところだが
ガチョウの知性とは何なのか
私もわかっていないところが問題だ」

「じゃあさっきからあそこで
我々を睨み続けているあの雄と、
あと台の上に乗って首を伸ばして
群れの中で一番体を大きく見せようとしている
あの2羽のうちのどちらかにしませんか、
彼らにはいい意味での
負けん気がある印象です」

「あの2羽だと、台の上に乗っている子のほうが
顔がシュッとして目じりがきりっとしてハンサムだ、
質実剛健、才色兼備であの子を選ぼう、
すみません、あの台の上で
格好をつけているあの雄をください」

というわけで白羽の矢を立てた雄ガチョウを
農場の人が捕まえてくれたのですが
これがもう絵に描いたようなドタバタ喜劇でですね。

ガチョウというのは集団移動を好むらしく
農場のお兄さんが群れの中の1羽を追いかけると
その1羽とその周囲のガチョウが逃げる、
その動きに他のガチョウも追随する、
ガチョウ総数は約100羽でその有様、
舞い散る羽毛、埃、そして耳をつんざく叫び声。

なんとか目当ての雄ガチョウを抑え込み
持参の段ボールに入れ、封をし、空気穴をあけ。

「さあ、これで君は我々の物だ!」

「これから少しドライブをすると
君の人生を変える
驚きが用意されているんですよ!」

そして我々は帰路についたのでした。

続く。

次回、『運命の出会い』、お楽しみに!
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