それにしても

わが甥(妹の息子)は

私の顔を見ると必ず

「コワイー」

とか細い悲鳴を上げて

他の人間の膝に抱きつくのですが

・・・あれは何なんでしょうか。


私の声が大き過ぎるんじゃないかとか

着ている服が黒っぽくて

子供の目には恐ろしいんじゃないかとか

色々な説は家族の間からも

出てきてはいるわけですが

・・・幼子の本能で私の精神のアレさ

嗅ぎつけているとかだったら嫌だなあ・・・


「というわけで、

イヤイヤ言うんじゃありません!

当方に害意はない!

その証拠にお前を叱ったことだって

今まで一度もないでしょ、

さあ安心してこっちに来たまえ!」

「コワイー」

「何が怖いだ、君、

日本語の使い方が

間違っているのと違うか!」

「コワイー」


妹の膝から離れようとしないわが甥と

そんな甥に呼びかけ続ける私の姿を

少し離れたところから見ていたわが父が

「なあ・・・俺は思うんだが、そのチビは

Norizoが怖くないってことを

じゅうぶん理解した上で

『コワイ』とか言っているんじゃないか。

ほら、そうすると周りの大人が笑うから」


何でしょうか

その受け狙い至上主義の2歳児は。


「もしそうだとしたらけしからんな、

いったい誰に似たんだ

そういう冗談最優先の軽薄な性格は!


妹の私を見る目がその瞬間

かなり冷たくなったのは

私の気のせいだと思っています。


まあ甥っ子に嫌がられてばかりというのも

伯母としては面白くないので

そこはまた安易に

食べ物で懐柔をはかることにいたしました。


「おい妹、

この小さい奴の最近の好物は何だ」

「お豆腐とミカンかな」

「そうか、よし、ほれ、甥っ子、

ここにお豆腐があるぞー欲しいかー」


私の差し出すお豆腐のお皿に

小さな手を差し伸べる甥の姿を確認してから

「でもNorizoおばさんに

失礼な態度を取る子供には

こんないいものはあげなーい」

「・・・お姉ちゃん、そういうことをするから

うちの子に嫌がられるんだと私は思うよ・・・」


ええ、その通りでしょうね!


ともあれ、その後甥っ子には

しっかりお豆腐とミカンを渡し

「いいか、これは賄賂ですぞ、

つまりは裏金です、

なにとぞよしなに!というやつです、

この恩を君は忘れちゃいけませんよ」


私の教えを理解したのかしないのか

甥は無心にお豆腐とミカンを口に運んでいました。


しかしこのミカンがちょっと古かったのか

房の部分が少し硬かったみたいなんですよ。


何度がミカンを咀嚼した後に

わが甥はべっと舌の上に

ミカンの房の残骸を載せて

私のことをじっと見詰めてきたのです。


殿・・・まさかその

原形をとどめない元ミカンの房を

わが手で受け止めよ、との仰せですか・・・!


「おい待て、甥っ子、

そこは頑張ってもう少し噛んでみよう」

「・・・」

「いや、君はまだ2歳だから

世の中のお作法とかが

よくわかっていないのかもしれないが、

そういうサービスの強要って

それはどうだろうと私は思いますな!」

「・・・」


だから変わり果てたミカンの名残を

舌の上に乗せたまま

そういう一点の穢れもない瞳で

私の顔を覗き込むのは止めなさい。


うーむ、私はこの甥っ子のことは好きだ、

今後友好的な関係を築けたら

とても嬉しいとは思っている、

しかしこれがその試金石なの?


神よ、貴方はどこまでの試練を

私にお与えになるのですか・・・!


私の動揺に

まったく気づかない様子の

甥っ子を前に

私は大人の知恵を総動員。

手元にあった他のミカンを手早く向くと

そのミカンの皮を受け皿状態にして

「わかった、折衷案だ、ここにペッてしなさい」


伯母としてはやはり手づかみで

甥の口元からかつてのミカンを

受け取るべきだったのでしょうか。


愛情表現って難しいですね。



ちなみにミカンとかお豆腐を与えると

甥は簡単に私に抱っこされるようになります


お前は私が本当に怖い人だったら

いったいこの後どうなってしまうつもりなのか、と


・・・小さなお子様をお持ちの皆様、

お子様からはなるべく目を離さぬがよし、ですぞ!


子供のこの危機感のなさって

本当に怖いものがありますわ!

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